どうも。「GO TO トラベル」キャンペーンにおける政府のポンコツ仕事ぶりを見ていると、8月下旬から実施される「GO TO イート」キャンペーンに全く問題がないとは思えません。
それはさておき、映画の感想文を書きます。今回は『やさしくキスをして』です。
アイルランド人の女性とイスラム系移民2世の男性が、宗教の問題を乗り越えて愛を貫こうとするラヴ・ストーリー(映画.comより引用)。2005年日本公開作品。監督はケン・ローチで、出演はエヴァ・バーシッスル、アッタ・ヤクブ、シャバナ・バクーシ、アーマッド・リアス、シャムシャド・アクタール。
何やらドリカムの曲名に似た邦題です。配給会社が全く意識しなかったと言っても、嘘になるでしょう。
人種や宗教の壁を越えた恋愛を描き、主人公のアイルランド人女性ローシン(エヴァ・バーシッスル)が音楽教師という設定ゆえに歌が効果的に用いられている点に、井筒和幸監督が在日問題を扱った『パッチギ!』との共通性があります。偶然でしょうか。両作品の公開時期は近く、配給会社は同じシネカノンですけど。
ローシンの恋人カシム(アッタ・ヤクブ)はパキスタン系移民2世です。パキスタンはインドとの宗教対立がありました。主にヒンズー教を信仰するインドから、イスラム教を信仰する者たちが独立して建国したのがパキスタンだからです。そのパキスタン人がイギリスに渡ったら、そこでは黒人の異教徒として差別や迫害を受けます。イギリスはキリスト教を信仰する白人が大勢を占める国だからです。
そのため、カシムの家族は同じパキスタン人同士でしか交流しなかったり、家族関係を強固にしたりする「守り」の態勢に入ることによって生活してきました。そのカシムの家族にとって、白人のローシンがカシムと結婚して家族の一員になることは受け入れ難いことなのです。
ローシンは差別について無知ではありません。ローシンは、白人至上主義者によって街の樹木に吊るされたアメリカ黒人の死体写真をスライドで見せながら、ビリー・ホリデイの『奇妙な果実』を聴かせる音楽の授業を行っています。同曲はアメリカの人種差別を告発した歌であり、ローシンは歌詞の意味も歌が生まれた背景も理解しています。
その聡明なローシンでも、異教徒であるカシムと婚姻外の性交をしているとされ、勤務先のカトリック系学校を辞めさせられます。ケン・ローチ監督は、『レイニング・ストーンズ』と同じく、信仰が救いや癒しをもたらすのではなく、苦しみや悩みの原因となることを描いています。ローシンはイスラム教徒であるカシムの家族から結婚について猛反対を受けるだけでなく、同じキリスト教徒(カトリック)からも攻撃される受難の日々を送ります。
結局、カシムは家族より愛するローシンを選びます。また、カシムの妹タハラ(シャバナ・バクーシ)は親が勧める地元のグラスゴー大学ではなく、遠方のエジンバラ大学に推薦入学して、ジャーナリストになることを目指します。おそらくタハラはペンの力で人種差別する社会を変えようとしています。
カシムとタハラの選択を見れば、本作のテーマは古き時代の因習を打破し、新しい時代を開拓する強い個人の意思であると解することができるのです。
★★★★☆(2020年7月8日(水)DVD鑑賞)
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