どうも。『仁義なき戦い』シリーズで大友勝利が刑務所から出てきたら、演じるのが千葉真一から宍戸錠に変わっていたというサプライズ。宍戸さんのご冥福をお祈り致します。
故人を偲びながら、映画の感想文を書きます。今回は『ラブ&ピース』です。
ロックミュージシャンの夢に破れ、楽器の部品会社で働くサラリーマン鈴木良一。想いを寄せる同僚の寺島裕子にもまともに声をかけることもできず、うだつのあがらない日々を過ごしていた。ある日、良一がデパートの屋上で出会った一匹のミドリガメ。その亀に運命的なものを感じ、ピカドンと名前をつけてかわいがる良一だったが、会社で同僚にからかわれピカドンをトイレに流してしまう。しかし、下水道を流れていったピカドンが地下に住む謎の老人に拾われたことにより、良一とピカドンに思いもよらない展開が待っていた(映画.comより引用)。2015年公開作品。監督は園子温で、出演は長谷川博己、麻生久美子、渋川清彦、マキタスポーツ、深水元基、手塚とおる、星野源(声)、中川翔子(声)、犬山イヌコ(声)、大谷育江(声)、西田敏行。
『冷たい熱帯魚』など過激な問題作が多い、園子温監督にしては珍しいファンタジー映画です。園作品に出演経験がある俳優もいますが、意外な文化人がカメオ出演しています。彼らの役割は、大衆によって形成される世間の象徴です。
主人公の鈴木良一役を演じる、長谷川博己の豹変は高低差があり過ぎます。前半の鈴木と後半のワイルド・リョーは別人に見えます。
その鈴木が思いを寄せる寺島裕子役を、麻生久美子が演じています。麻生はオタク男子憧れのマドンナ役に定評があり、地味な眼鏡女子というルックスで彼らのハートを掴む才能を持っています。
トイレに流されてしまった、ミドリガメのピカドンが流れ着いた先には、捨てられたペットや人形が集まっていました。それらの世話をしているのが謎の酔いどれ老人(西田敏行)です。ペットは生身の動物で、人形はレトロ感漂うデザインになっています。そのチープな手作り感がキャラクターに温かみを与えています。
捨てられたペットや人形は、社会から排除された者を意味しており、園監督はそれらに愛情の眼差しを向けています。本作の終盤がクリスマスに設定されているので、『シザーハンズ』や『バットマン・リターンズ』などティム・バートン作品との共通性が見られます(『バットマン・リターンズ』の悪役ペンギンは、醜く生まれたために川に捨てられ、流れ着いた先の地下水道でペンギンたちに育てられます。本作のピカドンと似た境遇です)。
謎の老人の言葉には、東北訛りがあります。演じる西田が福島県出身であり、園監督が『ヒミズ』で東日本大震災を、『希望の国』で福島第一原発事故を一早くテーマにしたことから、捨てられたペットや人形に、棄民された被災者の姿を重ねてしまいます。
スタジアムを何万人もの観客で満員にできるロックスターを夢見る鈴木の姿は、東京五輪に向かう日本と重なります。どちらも虚栄への道を歩もうとしています。それで驕り高ぶり、ピカドンすなわち原爆投下と原発事故という過去を忘却するのは愚かです。
虚栄の道へ導こうとする愚か者は、夢や希望を口にして大衆を煽動します。しかし、忘却して風化させてはならない過去を突き付けることによって、それらの夢や希望が薄っぺらなハリボテだと露呈します。本作は、東京五輪が開催される今年だから観る意味があるのです。
★★★★☆(2020年1月13日(月)DVD鑑賞)
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