どうも。先日の記事『本当に腹が立つ奴ら』で嫌韓バカを非難したにもかかわらず、その記事に「いいね!」した嫌韓バカ(○牛の〇馬)がいました(もう外したかもしれません)。内容を理解せずに「いいね!」したようで、「バカだから嫌韓になる」という自説が実証されて愉快です。
それはさておき、映画の感想文を書きます。今回は『日本脱出』です。
渡米してジャズ修行することを夢見るバンドボーイが、兄貴分と組んでソープランドから強奪した大金を持って逃走する話。1964年公開作品。監督は吉田喜重で、出演は鈴木やすし、桑野みゆき、待田京介、坂本スミ子、市原悦子、内田良平。
オープニングに岡本太郎が出てきて驚きます。本作のタイトルバックは、岡本が描いたものです。音楽は武満徹をメインとしながら、ジャズパートを八木正生が担当しています。得意分野を分担する点に、音楽へのこだわりが見えます。
それで監督が吉田喜重ならば、アート性の高い作品になるかと思えば、決してそうではありません。構図への執着による固定ショットの多用は、確かに吉田監督らしいです。しかし、他の吉田監督作品に比べ、内容は分かり易くて通俗的であり、演出のタッチにおいてドライさよりウェットさが勝っています。
主人公のバンドボーイ竜夫役を演じる、鈴木やすしのキャラクターがそれらを強調しているのかもしれません。『不良番長』シリーズでコミカルな演技をしている鈴木しか知らないので、シリアスな本作に出演していたのは意外です。
本作が公開された1964年7月4日は、東京五輪開催が間近に迫っており、劇中に聖火リレーのシーンがありました。日本が世界中から注目を浴びようとする時期に、『日本脱出』は実に挑発的なタイトルです。
世間が五輪開催に向けて高揚していくのに反し、逃走中の竜夫は堕ちていきます。竜夫は渡米して大勢の客の前でジャズを歌う夢(その夢は皮肉な形で実現します)を抱く、能天気な青年に過ぎません。その竜夫が逃走中、米軍という外国の軍隊が居座る平和国家日本や、北朝鮮に密航しようとする在日朝鮮人青年という現実と接することにより、徐々に発狂していきます。
これは、五輪という盛大な祭典に浮かれ、忘却しようとしている政治的現実を日本国民に直視させる大胆な挑発です。その政治性を見抜き、恐れた松竹は吉田監督に無断でラストシーンをカットしました(だから、本作のラストシーンは本当のラストシーンではありません)。そして、その愚行が吉田監督の松竹退社のきっかけになりました。
ラストシーンを無断カットされながらも、本作は劇場公開されました。当時は、お祝い的な五輪ムードを煽る映画が公開される一方で、本作のように五輪ムードに批判的な映画も公開される寛容さがあったのです。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前にして、もし盛り上げムードに水を差すような映画やテレビ番組を作らせない圧力があるならば、日本は56年前より不寛容で、表現の不自由が罷り通る社会に劣化したことになるでしょう。
★★★☆☆(2019年8月14日(水)DVD鑑賞)
![]() |
日本脱出 [ 鈴木やすし ]
1,990円
楽天 |
にほんブログ村 映画評論・レビューに参加しています(よろしければクリックを!)