【映画評】ヒメアノ~ル | じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

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このブログは、田舎で暮らすおっさんの独り言を日々書き綴っています。ブログタイトルの「じゃんご」とは秋田弁で「田舎」のことで、偶然にもマカロニウエスタンの主人公の名前でもあります。何となく付けてみました。お時間があれば、広い心で御覧になってください。

どうも。「『NHKから国民を守る党』から国民を守る党」を立ち上げると無限ループに陥ります。

 

それはさておき、映画の感想文を書きます。今回は『ヒメアノ~ル』です。

 

平凡な毎日に焦りを感じながら、ビルの清掃のパートタイマーとして働いている岡田は、同僚の安藤から思いを寄せるカフェの店員ユカとの恋のキューピッド役を頼まれる。ユカが働くカフェで、高校時代に過酷ないじめに遭っていた同級生の森田正一と再会する岡田だったが、ユカから彼女が森田にストーキングをされている事実を知らされる(映画.comより引用)。2016年公開作品。監督は吉田恵輔で、出演は森田剛、佐津川愛美、ムロツヨシ、駒木根隆介、山田真歩、大竹まこと、濱田岳。

 

(『行け!稲中卓球部』から『ヒミズ』までの古谷実作品を読んでいても、本作の原作漫画を読んだことがないおっさんの感想文であることを事前にご了承ください)

 

出演者が全員演技巧者であり、登場人物のキャラクターを古谷作品の世界観に寄せているような気がします。特に安藤を演じるムロツヨシは、かなり攻めている印象を受けました。

 

最も攻めているのは、森田役を演じる森田剛であり、ジャニーズ事務所のV6メンバーとは思えない怪演技を見せます。まるで「V6で芝居が出来るのは岡田准一だけじゃねえぞ」という意地すら感じさせます。本作で森田とダブル主演になる、濱田岳が演じる役名が岡田であるのは、偶然と思えなくなるほどです。

 

吉田恵輔監督は、『純喫茶磯辺』や『さんかく』において、日常に潜む人間のダークな危なさを表現していました。本作でも、その技術は活かされており、前半で緩めの恋愛物を展開し、伏線を散りばめておきながら、タイトルが表示されてからの後半でR15指定も納得の暗黒殺戮劇に転調させます。

 

本作と同じ古谷作品を原作としている『ヒミズ』において、園子温監督は制作当時に発生した東日本大震災を内容に取り入れ、原作を大胆に改変しました。個人の内的絶望を描いた原作に対し、それを凌駕する外的絶望が現実に起こったからです。本作の場合、現実に起こった事件を積極的に取り入れることなく、森田個人の内的絶望を掘り下げています。

 

森田の内面にある虚無は、徹底して深き絶望の末、自分を殺したからです。ラストで強いショックを受けた森田が取り戻したのは、殺した頃の精神的年齢の自分なのです。

 

自分を殺すことによって他者と正常な意思疎通が出来ない森田が異常者であるならば、本作の登場人物もまた相互理解できない異常者です。安藤がユカ(佐津川愛美)のことを理解していなかったのは分かり易く、喜劇的に描かれています。しかし、岡田と安藤、岡田とユカは互いに分かり合えていたでしょうか。岡田は安藤やユカの意外な一面を知り、驚くことがあります。相手のことを分かっているようで分かっていなかった岡田は、森田のことも分かっていませんでした。

 

本作で森田が起こしたような事件が起これば、世間は「犯人の心の闇」というお決まりのもっともらしい言葉で処理するでしょう。こうした処理の仕方は、犯人の人間的本質を理解することを放棄した態度です。しかし、それが共通理解としてまかり通ってしまう世界に私たちは生きています。それならば、本作の登場人物だけでなく、私たちも相互理解できない異常者ということになるのです。

 

★★★★★(2019年7月1日(月)DVD鑑賞)

 

 

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