
今回の寅さんが恋する相手は、北海道で偶然知りあった薄幸の三流歌手、リリー。このリリーをめぐっての寅さんの奮闘努力を描く(映画.comより引用)。1973年公開作品。監督は山田洋次で、出演は渥美清、倍賞千恵子、浅丘ルリ子、松村達雄、三崎千恵子、前田吟、太宰久雄、佐藤蛾次郎、笠智衆。
「男はつらいよ」シリーズ第11作で、マドンナ役は浅丘ルリ子です。浅丘演じるリリーは、不幸な境遇のキャバレー歌手であり、過去のマドンナとタイプが違います。過去のマドンナは堅気で、帰るべき家を持ったタイプばかりであるのに対し、リリーはやさぐれて、家を出て放浪するタイプです。
そのため、寅次郎(渥美清)の惚れ方も過去作と異なるように見えます。これまでのマドンナに無かった、同じ「旅人」タイプ故の共感が根底にあるのです。
このように山田洋次監督は、シリーズ11作目にして新しいパターンを入れてきます。「男はつらいよ」シリーズは、一見すると同じ筋書きのマンネリのようですが、毎回細かいアレンジを加えています。落語家が同じ噺でありながら、客の空気を読んで喋りの調子を変えたり、時流に合わせたアドリブを入れたりするのと同じです(ちなみに山田監督は落語好きです)。それを読み取れず、マンネリだから面白くないと一蹴する者は鈍感です。
本作において、山田監督は物質的・経済的な裕福さに捉われない幸福について描いています。やくざな道を歩んできた寅さんもリリーも、ささやかな幸福を求め、それぞれ地道に生きる道を歩むことにします。寅さんは北海道の酪農家の下で勤労しようとしますが、根っからの社会不適合者なので、すぐに音を上げることが想像できますけど。
何やらシリーズ完結のような終わり方をしますが、本作以後もシリーズは続き、リリーは後に再登場することになるのです。
★★★☆☆(2019年3月22日(金)DVDで鑑賞)
寅さんに初代江戸家小「猫」と毒「蝮」三太夫が出ているよ。