
1906年に発生したサンフランシスコ大地震を前に、劇場主と女性歌手の愛の行方を描く。1936年日本公開作品。監督はW・S・ヴァン・ダイクで、出演はクラーク・ゲーブル、ジャネット・マクドナルド、スペンサー・トレイシー、ジャック・ホルト、ジェシー・ラルフ、テッド・ヒーリー。
タイトルの「桑港」はサンフランシスコのことです。演者が突然歌い踊るのではなく、ジャネット・マクドナルドがステージ上で歌唱するシーンだけで、ミュージカル映画に分類されます。同じ演出のマーティン・スコセッシ監督、ライザ・ミネリ主演の『ニューヨーク・ニューヨーク』もミュージカル映画ですからね(正確には「ミュージカルシーンの出来が良い映画」かもしれません)。
1906年当時のサンフランシスコは、堕落した街と蔑まれ、その象徴が歓楽地帯の劇場主ブラッキー(クラーク・ゲーブル)です。育ちの悪さもあってか、粗野で不器用な愛し方しかできないヤクザ者です。
オペラ歌手を目指して田舎から出てきたのに、火事で焼け出されたメアリー(マクドナルド)は、ブラッキーの劇場で歌手として雇われます。しかし、歌わされるのは上品なオペラではなく、安っぽい曲です。演歌歌手を目指したのに、アイドル歌手でデビューさせられた長山洋子みたいなものです。
ヤクザ者のブラッキーと牧師の娘であるメアリーは、初めは相性が悪かったのに、徐々に惹かれ合って行きます。しかし、メアリーに恋をした上流社会の紳士ジャック(ジャック・ホルト)が、メアリーを横取りし、オペラ歌手として売り出した(結局演歌歌手になれた長山洋子と同じ!)ことから、二人の関係は悪くなるのです。
心の距離が離れてしまったブラッキーとメアリーを大地震が襲い、互いの生死が分からないほど現実の距離も離れてしまいます。それでもブラッキーは被災地を彷徨いながら、何とかメアリーを見つけ出し、二人はサンフランシスコ復興のため、希望をもって立ち上がるのです。
メアリーが牧師の娘だったり、ブラッキーの幼馴染みで彼を説得できるのが牧師マリン(スペンサー・トレイシー)だったりと、キリスト教の色が見え隠れします。アメリカ映画なので当然だとしても、災害復興まで宗教色を帯びるのは、あまり好ましくありません。精神的に弱っている人たちを「棚からぼた餅」的に勧誘しているような印象を受けます。
そうは言っても、大災害から希望をもって立ち上がろうとするメッセージは良いものです。本作は被災から約30年後に作られましたが、日本でも阪神大震災や東日本大震災からの復興を、ドキュメンタリー映画ではなく、エンターテインメント性のある劇映画で描いてほしいです(テレビドラマであれば、実は『あまちゃん』がそうですね)。
★★★☆☆(2019年3月16日(土)DVDで鑑賞)
私的には『雨に唄えば』がミュージカル映画ベスト1です。