
高級ホテルの老ドアマンが高齢を理由に洗面所のボーイに配置換えされたが、姪の結婚式に出席するため、内緒でドアマンの制服を持ち出してしまう。1924年製作のドイツ映画で、1926年日本公開作品。監督はF・W・ムルナウで、出演はエミール・ヤニングス、マリー・デルシャフト、マックス・ヒラー、エミリー・クルツ、ハンス・ウンターキルヒェン。
本作は終盤になるまで字幕が無く、映像だけで表現する白黒サイレント映画です。それでも物語は伝わります。老ドアマンを演じるエミール・ヤミングスの演技のみならず、F・W・ムルナウ監督の表現手段によるところも大きいです。
姪の結婚式で老ドアマンが酩酊状態になったことを、彼の主観映像にして、フォーカスをボヤかしたり、室内をグルグルと回転したりして表現しています。また、秘密にしていた配置換えが同じアパートの住人にバレた時、何人もの住人たちが嘲笑する顔を画面中に映すのも、老ドアマンの主観です。これらのように、老ドアマンの内面的心情も映像で表現しているので、話が分かり易いのです。この表現手法をドイツ表現主義と言うらしいです。
高齢のため体力が低下した老ドアマンは、酩酊状態で大きな鞄を片手で持ち上げる力を取り戻す夢を見ます。これは切ないです。老ドアマンが身内や隣人に配置換えされたことを秘密にしているのは、現代のリストラされたサラリーマンの悲哀に通じるものがあります。解雇されたサラリーマンが従来どおりの時刻にスーツ姿で家を出て、実は公園で一日中時間を潰しているという悲しい話は、老ドアマンの状況と似ています。
制服ごとドアマンとしてのプライドを奪われ、慣れないボーイの仕事で打ちのめされ、身内や隣人に秘密がバレて、失意でボロボロになった老ドアマンの姿で物語は終わる……かと思ったら、突然字幕が挿入されます。大まかな意味は「私たちが作った本当の物語は、ここで終わりですが、不本意ながらスタジオ側からの要請で、これからのエピソードを追加しました」というものです。そこから始まるのは、幸運にも大富豪の遺産を相続した老ドアマンがホテルで贅沢三昧をするエピソードです。
このエピソードは完全に蛇足です。それまでの流れを台無しにしています。ハッピーエンドばかりが映画ではありませんから(しかし、最近私たちが観ている映画も、実はプロデューサーからの要請でラストが差し替えられたのかもしれません)。
★★★☆☆(2019年2月15日(金)インターネット配信動画で鑑賞)