
会津松平藩士の笹原伊三郎は、主君松平正容の側室であるお市の方を、自分の長男である与五郎の妻にせよと命じられた。婿養子として肩身の狭い思いをしてきた伊三郎はこの話を断ろうとするが、藩の命令に背くこともできず、お市を受け入れることにした。だが予想に反しお市は従順で、やがて可愛い孫娘にも恵まれる。しかし正容の嫡子である正甫が急死したことから、その次の世継候補である菊千代を産んだお市を返上せよとの命令が下った(Yahoo!映画より引用)。1967年公開作品。監督は小林正樹で、出演は三船敏郎、司葉子、加藤剛、神山繁、三島雅夫、山形勲、仲代達矢。
『切腹』と同じ原作者(滝口康彦)、同じ監督(小林正樹)、同じ脚本家(橋本忍)、同じ音楽家(武満徹)、同じ出演者(仲代達矢、三島雅夫、松村達雄)です。松竹が製作した同作に“世界のミフネ”こと三船敏郎を足したら、ヒットするだろうという東宝の「柳の下の泥鰌」狙いな思惑が見えてきます。
藩主松平正容(松村)が側室であるお市の方(司葉子)を、藩士である笹原伊三郎(三船)の長男である与五郎(加藤剛)に押し付けます。まるで『蒲田行進曲』における銀ちゃんのように我儘な行いです。それでも仲睦まじく暮らしていた与五郎とお市なのに、藩主は世継ぎの都合でお市を返上しろと命令します。藩主とその取り巻き連中は、お市という一人の女性をレンタル商品扱いしています。
法を恣意的に行使する権力者に対し、人倫=人の道を通して対立するのが伊三郎です。伊三郎を演じる三船は、『用心棒』で見せた自ら駆けて斬るスタイルの殺陣を本作でも披露します。大御所俳優になると自ら動かず、襲いかかる切られ役を刀で払うスタイルの殺陣になりがちです。それをしないのが、他を以て代え難い三船の個性です。
終盤には、『椿三十郎』の緊張感を再現するかのような伊三郎と浅野帯刀(仲代達矢)の対決シーンまであります。三船の存在によって、本作は良質な時代劇になっています。
しかし、あえて言わせてもらえば、三船のスター性がマイナスに作用している部分もあります。婿養子である伊三郎は、勝気な妻すが(大塚道子)の前で忍耐を強いられる日々を送ってきました。それならば、もっと女房の尻に敷かれた感じを出しても良いのですが、三船のスター性と合わないでしょう。
また、本作において対立軸になるのは、伊三郎と側門人の高橋外記(神山繁)です。これは、『切腹』において対立軸になるのが仲代と三國連太郎だったのに比べると、バランスが悪い配置です(神山さん、ごめんなさい)。バランスを取るため、三船と同格の俳優をキャスティングしようにも、それは難しい話だったでしょう。
また、終盤において多勢に無勢の伊三郎が立ち向かっていく展開は、くどい感じがしました。三船の見せ場を作るための演出でしょうけど、極端に言えば、『明日に向って撃て!』のラストシーンみたいにして、観客に放り投げても良かったです。
これらのマイナス部分があるので、本作よりストイックな印象がある『切腹』の方が私は好きです。
★★★★☆(2019年2月8日(金)DVD鑑賞)
先頃亡くなった市原悦子が、この面子の中で存在感を示します。