
パブの歌手マギーにはつらい過去があった。彼女の留守中に起きた火事で長男が大やけどを負い、社会福祉局によって4人の子ども全員が養子に出されてしまったのだ。やがて彼女はパラグアイ出身のホルヘと再婚し、子どもを授かる。ところが、彼女に母親失格の烙印を押した福祉局によってまたもや子どもが奪われてしまい……(映画.comより引用)。1996年日本公開作品。監督はケン・ローチで、出演はクリシー・ロック、ウラジミール・ヴェガ、モリシオ・ヴェネガス、レイ・ウィンストン。
マギー(クリシー・ロック)は、父親の異なる子を4人も産み、DV夫(レイ・ウィンストン)から逃れるため、女手一つで育てています。しかし、長男が大火傷を負った事故が育児放棄とされ、しかも一度怒り出すと止まらない性格のマギーは、裁判所でも騒いだので、養育能力なしと認められてしまいます。冷静かつ客観的に見れば、仕方ないと思います。
ところが、マギーの性格は幼少期に父親から受けた虐待が原因であり、その上で子供を取り上げた行政への不信感が募ったものだと分かります。事は単純ではありません。
そのマギーの夫となるホルヘ(ウラジミール・ヴェガ)は、パラグアイで孤児の救済をしていた政治的亡命者です。ホルヘが愛に不器用なマギーを嫌がることなく、献身的に守ろうとするのは、かつて孤児を救済していた慈愛の心からなのかもしれません。
マギーが父親からの虐待を受けていた時、行政は不作為的に看過していました。それなのに、マギーが子供を産めば、行政は法律や規則を理由として、作為的に子供を取り上げようとします。ローチ監督は、そこに行政権力の無責任さやテキトーさを見出して批判しています。
マギーを困らせて苦しめる行政側の人間が、全て白人=イギリス人ばかりであるのに対し、マギーに寄り添って救おうとするのは、パラグアイ人のホルヘや黒人の女友達です。真の敵は意外と身内にいるもので、イギリス人を批判するのはイギリス人であるローチ監督の役目です。隣家の火事を消しに行くより、自宅の火事を消すのが先です。こういうのを「同胞叩き」とか揶揄するのは頭が悪い人です。
そうは言っても、マギーの面倒臭い性格は半端ではなく、行政の判断にも一理あります。権力に批判的で、弱者救済を主張する左寄りの人でも、現実に接したら手に負えないレベルです。この綺麗事や安易な同情を許さない姿勢が、ローチ監督を並の社会派監督にしていないのです。
★★★★☆(2019年1月28日(月)DVD鑑賞)