【映画評】龍三と七人の子分たち | じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

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このブログは、田舎で暮らすおっさんの独り言を日々書き綴っています。ブログタイトルの「じゃんご」とは秋田弁で「田舎」のことで、偶然にもマカロニウエスタンの主人公の名前でもあります。何となく付けてみました。お時間があれば、広い心で御覧になってください。

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金も居場所もなくなり、毎日くすぶった生活を送っていた元ヤクザの元組長、龍三。ある日オレオレ詐欺にひっかかってしまった龍三は、詐欺で人々を騙す若者たちを成敗しようと、昔の仲間を呼び寄せて世直しに立ち上がる(映画.comより引用)。2015年公開作品。監督は北野武で、出演は藤竜也、近藤正臣、中尾彬、品川徹、樋浦勉、伊藤幸純、吉澤健、小野寺昭、清水富美加、山崎樹範、安田顕、矢島健一、下條アトム、勝村政信、萬田久子、ビートたけし。
 
本作は、元々高倉健主演の企画だったそうです。しかし、健さんが健康上の理由で出演が困難になり、色々と内容変更を重ねた末、本作の形で完成しました。もし本作で龍三役の藤竜也がやったことを健さんがやっていたら、それはもう凄い映画になったでしょう。それに健さんが龍三役ならば、おそらく龍三の子分役は田中邦衛、小林稔侍、中本賢、石倉三郎あたりになっていたでしょう。
 
老人が主人公である「老人映画」の大家ならば、『スペース・カウボーイ』や『グラン・トリノ』のクリント・イーストウッドがいます。老人映画である本作が、それらのイーストウッド作品よりコメディ色を強めているのは、北野武監督の芸人としての性でしょうか。
 
確かに早撃ちのマック(品川徹)が仁義を切っている途中に、若いヤクザ(川口力哉)が次々とツッコミを入れるのは、漫才のノリです。しかし、映画において笑いを生むならば、シリアスな状況展開中に不意にボケを入れる落差が重要であり、全体的にシリアスさがない本作では、落差が小さいので笑いが弱いという結果になっています。
 
かつてビートたけし名義で監督した『みんな~やってるか!』という、笑えない狂気のコメディ怪作と異なり、公開規模が大きかった本作はもっと一般層にウケるところを狙うはずなのに、この仕上がりはどうしたことかと首を傾げてしまいます。
 
まあ、本作が一般層狙いにしては、ヤクザをネタにしたり、死体を玩具にしたりする不謹慎な笑いが多いのは確かです。それを笑えないのは受け手が重度な「コンプライアンス病」に罹って、精神がこわばっているからだと反論されるかもしれません。しかし、不謹慎な笑いならば、三池崇史や園子温がもっと過激な方法で見せて、それには爆笑することがあります。本作の不謹慎な笑いがウケないのは、コンプライアンス病云々ではなく、単に演出が下手なだけです。それでも「世界のキタノ」がこんなことをやっているから凄いと言うのであれば、それは権威主義的な自己満足に陥っているだけだと吐き捨てます。
 
ところで本作における不謹慎な笑いとして、神風のヤス(小野寺昭)がヤクザで右翼という設定で、右翼を虚仮にするものがあります。この右翼のヤクザを虚仮にするのは、伊丹十三が『ミンボーの女』でやっています(同作で右翼のヤクザを演じた中尾彬は、偶然にも本作に出演しています)。それによって伊丹は右翼のヤクザに襲撃されました。本作に対して右翼から何らかの反応があったのでしょうか。どうしたのでしょうね、日本の右翼は。
 
伊丹作品は権力側が正義という傾向が強く、『ミンボーの女』では徹底してヤクザを悪として描きました。伊丹監督らしく、無知な観客にものを教えてやるという啓蒙的で衒学的な描き方です。しかし、ヤクザが悪だというのは誰もが知っている現実です。権力側が正義で、ヤクザが悪という現実を追認するために、わざわざ金を払って映画を観に行くのは馬鹿らしいことで、そんな映画を作る人間はインテリを装った馬鹿です。
 
本作の刑事(ビートたけし)は、龍三たち老人ヤクザを利用して手柄を上げる点で、『アウトレイジ』で小日向文世が演じた狡猾な刑事と同じです。しかし、そこに汚さや不快さはなく、ラストでカッコいい見せ場まで用意されています。北野作品には、ヤクザを美化することも刑事に正義面させることもない、正に「全員悪人」的な世界観が一貫していたはずなのに、これはどうしたことでしょう。まさか北野監督も権力側が正義というスタンスなのでしょうか
 
かつてテレビ番組で伊丹と共演した時、「アンタなんかに映画が撮れるわけがない」と言われた北野は、かなり悔しかったらしく、伊丹への対抗心が原動力であるかのように映画監督として成功してきました。伊丹が傾倒するも片思いに終わった、映画評論家の蓮實重彦が自作を高く評価したのは、北野にとって復讐を成し遂げた気になったでしょう(もしかしたら初期の北野作品は、意図的に蓮實ウケする作風にしたのかもしれません)。
 
そんな北野が、いつの間にか伊丹と同じスタンスになったのでは、まだ観ぬ『アウトレイジ 最終章』に対して何とも言えない不安が生じてしまうのです。
 
★★☆☆☆(2019年1月11日(金)DVD鑑賞)
 
新宿スワン』でもそうでしたが、安田顕はセコいヤクザ役にハマります。
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