
アメリカ東部の大学に赴任してきた哲学科の教授エイブは、人生の意味を見失い、孤独で無気力な暗闇に陥っていた。ある日、迷惑な悪徳判事の噂を耳にしたエイブは、その判事を自らの手で殺害するという完全犯罪を夢想し、次第にその計画に夢中になっていく。新たな目的を見い出したことで、エイブの人生は再び輝き出すのだが……(映画.comより引用)。2016年日本公開作品。監督はウディ・アレンで、出演はホアキン・フェニックス、エマ・ストーン、パーカー・ポージー、ジェイミー・ブラックリー。
大学教授のエイブ役を演じるのは、ホアキン・フェニックスです。『ザ・マスター』で精神を病んだアルコール依存症者を演じており、本作のエイブ役のオファーは、その演技力が評価されたものでしょう。裸になると腹が出ているのは、リアルな中年男性を演じるための役作りですかね。
そのエイブに恋心を抱く学生ジル役を演じるのは、『マジック・イン・ムーンライト』に続き、ウディ・アレン監督作品に出演となるエマ・ストーンです。小顔で目が大きく、体型がスレンダーなストーンは、いかにも「娘さん」という感じで、学生役にハマっています。
中年男と若い娘の組み合わせは、他のアレン作品にもありがちです。これはアレンの願望でしょう。アレンが現在の妻であるスン・イー・プレヴィンと結婚した当時、アレンは61歳で、スン・イーは27歳でしたから。しかもスン・イーは、アレンのパートナーだったミア・ファローの養女であり、知り合ったのは、もっと若かった頃になります。若い娘好きのアレンが加藤茶に見えてきそうです。
劇中でも引用されているとおり、本作はドストエフスキーの『罪と罰』をアレン流にアレンジしたものです。そこでは、殺人という不道徳なものが人間に生きる活力を与えるという皮肉が描かれています。
これを映画や文学など芸術分野に置換すれば、エロスや暴力という不道徳なものが人間を惹きつけることになります。政治分野に置換すれば、「正義のための戦争」を偽装した大量殺人という不道徳なものが国民を熱狂させることになります。エイブは悪徳判事を殺害することを正義だと思って実行していますから、後者に近いと言えます。エイブの親友がイラクで死んだというエピソードが言及されるので、その解釈が説得力を増します。
しかし、不道徳なもので快楽を得るのは人間の理性を冒涜するものであり、人間の理性を探究する哲学科の教授には、あるまじき行為です。それ故、結局エイブは当然の報いを受けることになるのです。
★★★★☆(2018年12月6日(木)DVD鑑賞)
本作の原題は「Irrational man」であり、和訳すれば「不合理な男」です。