
東大卒のエリートサラリーマンが美人局のヤクザに犯され、オカマになってしまうコメディ。1977年公開のにっかつロマンポルノ作品。監督は神代辰巳で、出演は谷ナオミ、鶴岡修、遠藤征慈、粟津號、牧れいか、あきじゅん、結城マミ、宮井えりな。
神代辰巳監督は『四畳半襖の裏張り』などのロマンポルノで頭角を現し、一般映画である『青春の蹉跌』で高評価を得ながらも、本作のようなロマンポルノも撮り続けていました。並の映画監督ならば、一般映画に「格上げ」されたら、ポルノ映画を敬遠するものですが、神代監督は積極的にロマンポルノの自由さを拡大する試みに取り組んでいます。
主人公の北山(鶴岡修)は、キャバレーのホステスあけみ(谷ナオミ)を抱こうと彼女のアパートへ行ったところ、あけみのヒモであるヤクザ川崎(遠藤征慈)に犯され、オカマへの道を歩んでいきます(川崎は北山の後にあけみも抱くので、バイセクシャルです)。そのため、北山と川崎の男同士の絡みを何度も見せられるので、普通のロマンポルノを期待して観に来た殿方は「何じゃこりゃ?」と困惑したことでしょう(やがてオカマとして成長した北山が、あけみを追い越し、第一夫人扱いになるのが可笑しいです)。
また、川崎の本業は美人局であり、雇っている女子高生たちを一流の娼婦にするため、女性器に吹き戻し(別名ピロピロ笛)を挿し、紙筒を伸ばさせるという花電車トレーニングを課します。このシーンは見た目が相当に面白く、普通のロマンポルノを期待して観に来た殿方の性欲を低下させたに違いありません。
これらから本作は完全にコメディ映画だと分かります。その他には、川崎の子分である丸山(粟津號)が憧れている高倉健の『昭和残侠伝』のポスターが映る一方、北山が通うスナック東郷で伝説のオカマ東郷健が出演するという、男が惚れる健さんと男が好きな健さんが共演(?)するというおふざけもあります。
本作が、おふざけばかりの不真面目な映画かと思っていると、川崎と丸山が女子高生たちと乱闘するシーンでは、ノーカット長回しという真剣さを要する撮影方法を用いています。神代監督ら作り手は真面目にふざけて、本作を撮っていたのでしょう。この「真面目にふざける」という姿勢は、お笑い芸人の神髄でもあり、私は好きです。
本作のスタッフロールには、音楽担当の名前がありません。これはウディ・アレンやクエンティン・タランティーノの作品にもあることで、全編に渡って既成曲のみを使用しているからです。本作では矢野顕子の「あんたがたどこさ」が印象的で、神代作品には、こうしたつぶやくような、ささやくような楽曲がよく用いられます。
そうしたゆるい曲を流しながら、登場人物間の平手打ちの音や、濡れ場の喘ぎ声は大きめになっており、不思議な緩急が付けられています。もしかしたら、神代監督は映画を官能的なオーケストラと捉え、その内容より感覚的なもので観客を酔わそうとしていたのではないでしょうか。
★★★☆☆(2018年10月24日(水)DVD鑑賞)
粟津號は秋田県男鹿市出身です。