旅先で亡くなった香具師仲間の墓参りをした車寅次郎は、例によって急に柴又へ帰りたくなってしまう。とらやに戻ると、二階の自室は大学助教の岡倉に貸し出されていた。立腹した寅次郎は家を出ようとするが、すっかり美しくなった幼なじみの千代が訪ねてきたので、そのまま家に居着くことに。千代は二年前に離婚し、近くに美容院を開店したのだという。寅次郎は張り切るが、岡倉から千代への想いを告げられ、仲を取り持ってほしいと頼まれてしまった。断り切れない寅次郎は千代を遊園地に誘い、岡倉の気持ちを伝えるのだが…(Yahoo!映画より引用)。1972年公開作品。監督は山田洋次で、出演は渥美清、倍賞千恵子、八千草薫、松村達雄、三崎千恵子、津坂匡章(秋野太作)、前田吟、太宰久雄、佐藤蛾次郎、米倉斉加年、笠智衆、田中絹代。
シリーズ第10作で、マドンナの千代役は八千草薫です。特に鼻筋が美しいですね。「八千草薫の鼻がもう少し低かったら歴史は変わっていただろう」という言葉があるほどです(嘘)。
旅先から柴又に帰って来た寅さん(渥美清)は、身を固める決意をします。そこで周囲の人たちが縁談を探してきても、相手が寅さんというだけで断られまくります。寅さん、どれだけ地元で悪名を広めてきたのでしょう。
自業自得ではありますが、立腹した寅さんは再び旅立ちます。その旅先で立ち寄った旧家の奥さん(田中絹代)から客死した香具師仲間の話を聞き、また柴又に帰って来ます。ここまでで、寅さんがカタギにもヤクザにもなれない中途半端な存在であることが示されます。
柴又のとらやに帰ってみると、自室が大学助教授の岡倉(米倉斉加年)に貸し出されています。除け者にされたと立腹する寅さんですが、幼馴染の千代と再会し、上機嫌になって柴又に居つきます。そこで学問にしか興味がない堅物の岡倉が、千代に一目惚れしたことにより、寅さん、千代、岡倉の三角関係が出来上がるのです。
定職に就かず、香具師として放浪している寅さんは社会不適合者であり、その対極にいるのは、妹さくら(倍賞千恵子)の夫である博(前田吟)です。これまでのシリーズ作品では、両者を対比する構図が物語の背景にありました。
そこに、コミュニケーション能力を著しく欠いた岡倉が加わります。寅さんとはベクトルが異なりますが、岡倉もまた社会不適合者です。学問研究では一人前ですが、自活できる人間ではないからです。バツ1で美容院を経営する、社会経験がある千代が二人の社会不適合者と三角関係になると見れば、何とも不思議な話です。
結局、寅さんも岡倉も千代にフラれてしまいます。寅さんの場合、フラれたというより身を引いたという感じです。この身を引くことから、寅さんがカタギにもヤクザにもなれない中途半端な存在であることを自覚しているように感じます。その中途半端さは、寅さんに多くのファンが共感し続けた理由の一つではないでしょうか。完全無欠の人間なんていません。誰もが中途半端で生きていますから。
★★★☆☆(2018年6月20日(水)DVD鑑賞)
あれ、本作で源公(佐藤蛾次郎)に台詞ありましたっけ?