
長崎の伊王島。貧しいこの島に生まれた民子と精一が結婚して10年の歳月が流れていた。小さな島で家族5人を養っていくことに限界を感じた精一は、自分の会社が潰れたのを機に、友人が勧めてくれた北海道の開拓村への移住を決心するのだった(Yahoo!映画より引用)。1970年公開作品。監督は山田洋次で、出演は倍賞千恵子、井川比佐志、笠智衆、前田吟、富山真沙子、花沢徳衛、森川信、ハナ肇、渥美清、春川ますみ、太宰久雄、三崎千恵子。
長崎の小島から北海道の開拓村まで一つの家族が移動するロードムービーです。家族とロードムービーは『男はつらいよ』シリーズにも共通するテーマで、山田洋次監督の得意分野であり、ライフワークであると言えます(近年は山田監督の高齢化もあり、移動時間を要するロードムービーの要素が少ない作品になっていますが)。
民子役を演じる倍賞千恵子が美しいです。山田監督は倍賞を美しく撮るために映画を作っていると言われるのも納得です。本作の倍賞は誰かに似ていると思ったら、蓮佛美沙子に見える時があります。山田監督と蓮佛の組み合わせも見てみたいですね。
精一(井川比佐志)の父親である源造役を笠智衆が演じています。露店で物欲しげに饅頭を見ていた長男が、店員から饅頭をタダで貰ってくると、タダで食べ物を貰うのは乞食だと諭し、きちんと代金を支払わせるという昭和のお爺ちゃんらしさを見せます。見た目もお爺ちゃんらしい笠は撮影当時66歳であり、今年亡くなった大杉漣の享年と同じと知ると、何やら考えさせられるものがあります。
本作は今から48年前の日本の風景を記録したドキュメンタリー映画でもあります。ちょうど大阪万博が開催された年であり、その様子も映ります。『男はつらいよ』シリーズの渥美清、森川信、三崎千恵子、前田吟、太宰久雄に、『馬鹿まるだし』などのハナ肇という山田監督作品の常連俳優が出演していますが、素人のエキストラも多数出演しており、彼らもドキュメンタリーの一部です。『ALWAYS 三丁目の夕日』が過去の日本の風景をVFX技術で再現しても、それは所詮「再現」であって、本作は紛れもない「本物」が記録されているのです。本作で映る風景こそリアルでしょう。
本作は、山田監督が1年がかりで撮影した大作です。『男はつらいよ』シリーズに比べて、笑いを抑制していることに山田監督の本気度を感じます。アメリカ映画には、家族が稼ぎ口を求めて馬車や鉄道で長旅をするロードムービーが少なくありません。『怒りの葡萄』などです。山田監督は、それらをそっくり真似るのではなく、日本らしさを取り入れてアレンジした、日本のロードムービーを本気で作ろうとしたのではないかと思うのです。
★★★★☆(2018年5月3日(木)テレビ鑑賞)
移動手段が鉄道メインなので、昭和の鉄道ファンも楽しめます。