【映画評】やくざと抗争 | じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

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このブログは、田舎で暮らすおっさんの独り言を日々書き綴っています。ブログタイトルの「じゃんご」とは秋田弁で「田舎」のことで、偶然にもマカロニウエスタンの主人公の名前でもあります。何となく付けてみました。お時間があれば、広い心で御覧になってください。

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昭和七年頃、新宿の盛り場を舞台に雑草の様に生き、“爆弾マッチ”と呼ばれた実在の愚連隊の半生を中心に当時のやくざ、愚連隊の実態を実録的に描く(映画.comより引用)。1972年公開作品。監督は佐藤純彌で、出演は安藤昇、渡瀬恒彦、藤浩子、渡辺文雄、藤竜也、天津敏、室田日出男、堀田真三、菅原文太。
 
原作者であり、リアル愚連隊だった安藤昇が主演で、菅原文太と共演しています。売れない頃の菅原は、安藤の経営していた店の常連だったというエピソードがあります。その二人が映画の主演クラスで共演したのですから、感慨深いものがあったでしょう。
 
安藤が演じる“爆弾マッチ”山崎松男は、実在の人物です。しかし、山崎の舎弟であるオートンの勝(渡瀬恒彦)と小光(堀田真三)は、現実では山崎と対立関係にあった“愚連隊の神様”万年東一の舎弟です。すなわち本作は実録のようでありながら、複数の人物イメージをミックスさせたフィクションなのです(制作時に存命の人もいるので、描けない事実もあったのでしょう)。
 
当時の東映は、高倉健主演『昭和残侠伝』シリーズや藤純子主演『緋牡丹博徒』シリーズの仁侠路線がマンネリ化し、次なる“鉱脈”を探していた時期です。その時期に、任侠映画と同じ時代設定でありながら、やくざではなく愚連隊を主人公とする本作は、脱仁侠路線への挑戦であったという位置づけができます。この挑戦が『仁義なき戦い』など実録路線に繋がるのです。
 
本作では、国内における貧富の格差が拡大し、戦争で一儲けしようとする政治家や富裕層は右傾化し、「売国奴」や「国賊」という言葉を吐き散らし、徒党を組んで貧困層や社会的弱者を虐げる昭和7年頃の時代が描かれています。何か現代と変わりませんね。
 
本作のオープニングでは、白い布に赤い血が滴り落ちる画がタイトルバックになっています。エンディングでは、それと対をなすように、はためく日の丸の旗がモノクロで映っています。この演出に作品を貫くメッセージが表現されています。
 
オープニングは山崎ら愚連隊の生き様であり、政治や思想には無知でも、己の熱い感情に突き動かされ、仲間や弱き者のために血を流して戦う姿を表しています(佐藤純彌監督の過剰演出のおかげで、山崎は「普通死ぬだろ」と思うくらい流血します)。
 
エンディングは戦争に突き進む大日本帝国であり、政治や思想について理論武装し、金儲けしたいという汚れた欲望を“愛国心”で偽装して、弱き者を踏みつける冷血な正体を表しています(その姿を象徴した役を渡辺文雄が演じています。渡辺はこういう役を演じるのが上手いです)。
 
前者は単なるやくざ賛美や暴力賛美ではありません。後者は単純な反国家や反権力ではありません。本作が問うているのは、どちらが本当の日本人らしいか、どちらが本当の人間らしいかという根源的なことです。
 
★★★☆☆(2017年11月16日(木)DVD鑑賞)
 
佐藤純彌監督は拷問シーンが好きですよね。
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