
老舗旅館から勘当された“招かれざる兄”が帰ってきたことで起こる騒動を描く喜劇。1967年公開作品。監督は山田洋次で、出演はハナ肇、倍賞千恵子、谷啓、犬塚弘、桜井センリ、石井均、三井弘次、左とん平、北林谷栄、堺正章、井上順、加東大介。
『馬鹿まるだし』『いいかげん馬鹿』『馬鹿が戦車(タンク)でやって来る』の「馬鹿」三部作を作った、山田洋次監督&ハナ肇主演のコメディ映画です。それにしても、「馬鹿」三部作のタイトルを列挙するとインパクトがあります(特に三作目)。今の日本映画界では真似できない攻め方でしょう。
“招かれざる兄”の帰郷という設定は、山田監督の『男はつらいよ』シリーズの原型です。主人公の孝吉(ハナ肇)は勘当された後、テキ屋稼業で生活しており、子分(犬塚弘、桜井センリ)との関係が“ヤクザに憧れているがヤクザになり切れない男”の態度であるという点は、車寅次郎と重なります。
孝吉の妹・信子(倍賞千恵子)は、さくらと違って、生意気で行儀が悪く、画家を目指すハイカラ娘になっています。孝吉の父・忠(加東大介)は、おいちゃんと違って、孝吉を頑なに受け入れようとしません。本作を含めた試行錯誤の末、『男はつらいよ』のキャラクター設定や世界観に近付いていったのでしょう。
本作は、頑固に老舗旅館を守ろうとする忠と、自由奔放に新ビジネスに手を出す孝吉のジェネレーション・ギャップや感情の行き違いがメインになって展開します。この伝統を堅持する者と、それを破壊する者の対立は、さながら戦後日本社会の縮図のようでもあります。
終盤において、かつて家を出て行った孝吉が、自分の娘・マリ子(瞳ひかる)にも家を出て東京に行かれてしまう“親不孝”に遭います(マリ子を誘うチャラい若者を演じるのは、ザ・スパイダース時代の堺正章と井上順です。新世代の若者代表という意味合いでしょう)。この親子代々同じことが繰り返されるというところに、山田監督が描き続けている、時代や世代を超えた家族の普遍性を見ることができるのです。
★★★☆☆(2017年10月23日(月)DVD鑑賞)
タイトルバックがハナ肇のアップ映像というのは攻め過ぎです。