【映画評】日本一のホラ吹き男 | じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

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このブログは、田舎で暮らすおっさんの独り言を日々書き綴っています。ブログタイトルの「じゃんご」とは秋田弁で「田舎」のことで、偶然にもマカロニウエスタンの主人公の名前でもあります。何となく付けてみました。お時間があれば、広い心で御覧になってください。

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オリンピック選手の有力候補だった初等(はじめひとし)は、アキレス腱を切る事故で夢が断念されてしまう。だが彼は、先祖の一代記に大ボラを吹いて成功したという記述を読んで勇気づけられる。早速、増益電器に潜り込んだ彼は、さまざまな手段で異例のスピード出世を果たしていく……(Yahoo!映画より引用)。1964年公開作品。監督は古沢憲吾で、出演は植木等、浜美枝、中真千子、草笛光子、谷啓、三井弘次、飯田蝶子、山茶花究、曾我廼家明蝶。
 
クレイジー・キャッツからは植木等、谷啓、安田伸、桜井センリが出演しています。本作と同時期にハナ肇と犬塚弘は、山田洋次監督の『馬鹿まるだし』から続く「馬鹿」三部作に出演しています。同じグループのメンバーが異なる会社(東宝と松竹)の映画に主演し、しかも同時期に公開されるのは、今となっては不思議なことです(例えば、同じジャニーズ所属グループのメンバーが、同時期に異なるテレビ局のドラマで主演することは、ほとんどありません。潰し合いで共倒れになることを防ぐためですね)。そのことで当時のクレイジー・キャッツの勢いが分かります。
 
ニッポン無責任時代』から続く「無責任」シリーズの古沢憲吾監督なので、物語の展開はスピーディーです。オリンピック出場の夢破れた主人公(植木等)が会社でスピード出世していく様は、ボヤボヤしていたら置いて行かれます。
 
ところが、「無責任」シリーズの主人公と異なり、本作の主人公は奇策を用いながらも、きちんと努力して出世するので、前者より毒気は薄まっています。上掲ポスター画像に書かれているとおり、「責任もってホラも吹」いているのです。この方向転換は、『ゴジラ』のゴジラや『男はつらいよ』の車寅次郎が国民的人気キャラクターになっていく過程で、本来の怖さや荒々しさを失っていったのと同じです。大衆迎合化とも言えます。
 
大衆迎合は、同時に大衆教化の面もあります。本作の主人公は会社に寝泊まりし、1日19時間も残業代ゼロで自発的に働くモーレツ社員ぶりを見せます。これが当時のサラリーマンとして珍しくない姿であれば、大衆迎合です。しかし、サラリーマンはこうあるべきだと示す効果もあり、それは大衆教化です。本作のみならず、様々なメディアによる「モーレツ社員が戦後の高度経済成長を成し遂げた」という大衆教化は現代社会をも呪縛しており、過酷な長時間労働を当然視するブラック企業の実態が明るみに出にくい一因にもなっています。
 
本作で描かれたモーレツ社員ぶりやホラ吹いてスピード出世する人物像は、もはや過去の遺物で、一種の神話みたいなものです。「そんな時代もあった」と別世界にあるものとして見ればいいものです。しかし、近頃NHKドラマ『植木等とのぼせもん』やACジャパンのCMで植木がフィーチャーされ、時代をあの頃に回帰させようとする風潮があるのではないかと疑えば、本作も心から楽しむことができなくなるのです。
 
★★★☆☆(2017年10月13日(金)テレビ鑑賞)
 
草笛光子がすごく大人っぽいけど、当時まだ30歳過ぎたばかりで驚き。
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