
チンパンジーと愛し合ってしまった人妻とその家族の生活を、実話にもとづいて描いた作品(映画.comより引用)。1987年日本公開作品。監督は大島渚で、出演はシャーロット・ランプリング、アンソニー・ヒギンズ、ビクトリア・アブリル、アン・マリー・ベッセ、ニコール・カルファン。
スタッフとキャストでは、大島渚だけが日本人という環境で作られた映画です。スタッフは一流どころを揃えており、大島の国際的ネームバリューを知ることができます。ちなみに妻役のシャーロット・ランプリングと夫役のアンソニー・ヒギンズについては、当初イザベラ・ロッセリーニとマイケル・ケインをキャスティングしようとしたらしく、そのバージョンも観てみたい気がします。
チンパンジーのマックスは、本物と着ぐるみの二種類で撮影されています。双方の見分けがつきにくいほど、クオリティーが高く、『2001年宇宙の旅』の猿人に匹敵します。
本作は『愛のコリーダ』『愛の亡霊』と並ぶ「愛」三部作とされています。大島監督は、これらの作品で愛の追求が反社会的行為=犯罪になることを描き、人間性を抑圧する既存の権威や価値観を批判します。本作のラストで、マックスとの共同生活が反社会的行為(犯罪)になることを匂わす不穏な空気で終わるのは、そのためです。
ところで、フランスの作家ピエール・ブールは『戦場にかける橋』と『猿の惑星』を著し、どちらも映画化されています。前者は日本軍の捕虜になった連合軍捕虜の話で、ブールの実体験に基づいています。後者もブールの実体験に基づきますが、自分たちより劣る黄色人種の捕虜になったことの屈辱感をSFという形式で表現したものです。すなわち『猿の惑星』における猿は日本人のメタファーなのです。
さて、大島渚が本作の前に監督したのは『戦場のメリークリスマス』です。同作は日本軍捕虜収容所の物語で、日本兵も連合軍捕虜も登場します。『戦場にかける橋』の後に『猿の惑星』という事実と、『戦場のメリークリスマス』の後に本作という事実は、全くの偶然とは思えない何かを感じさせます。本作のマックスはやはり……と深読みしてしまうのです。
★★★☆☆(2017年6月10日(土)DVD鑑賞)
「愛」三部作の中ではエロが少なめの正攻法な映画です。