
高田馬場の決闘から堀部家養子入りまでの中山安兵衛を描いた時代劇。1944年公開の『高田馬場前後』を再編集し、改題して1953年公開作品。監督は松田定次で、出演は嵐寛寿郎、片岡千恵蔵、高山徳右衛門、常盤操子、江原良子。
嵐寛寿郎が安兵衛役の「高田馬場の決闘」です。『網走番外地』の鬼寅親分役くらいしか見たことがない私には、若いアラカンの姿が新鮮に映ります。
本作の内容より、本作が作られた当時(1944年)の時代背景が興味深いです。戦争中の当時、物資不足により企業統合が行われ、映画界でも日活と大映の制作部門が統合されました。そのため、日活に所属していた嵐寛寿郎、片岡千恵蔵らが大映製作の本作に出演しています(松田定次監督も日活所属でした)。
また、当時は映画法という法律があり、政府が映画に口出しすることが堂々と認められていました。おそらく政府としては国威発揚目的で忠臣蔵映画を作りたかったのでしょう。四十七士は忠義の模範ですから。しかし、まるで国富を質入れしながら戦争しているような厳しい経済的状況なので、製作費の都合上、「忠臣蔵エピソードZERO」とも言うべき本作になってしまったのです。
製作費がケチられていたことは、映画の内容で分かります。安兵衛が堀部家に養子入りしてから、終盤でその後の流れを駆け足で描きますが、「刃傷松の廊下」のシーンは他作品からの転用です。更にラストシーンの「吉良邸討ち入り」は暗黒のバックで少人数の義士しか登場しません。セットを組む美術費やエキストラに支払う人件費も十分でなかったということです。
本作と同時期のアメリカでは『誰が為に鐘は鳴る』が作られていたのですから、日米間の経済力=戦力の差は映画を見比べるだけでも、はっきりと分かります。そんな不自由な状況下でも、当時の映画人は映画を作り続けることを諦めず、それが本作として後世に残っているのです。
★★☆☆☆(2017年5月19日(金)DVD鑑賞)
お金が無くても、チャンバラシーンは頑張っています。