【映画評】プーサン | じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

このブログは、田舎で暮らすおっさんの独り言を日々書き綴っています。ブログタイトルの「じゃんご」とは秋田弁で「田舎」のことで、偶然にもマカロニウエスタンの主人公の名前でもあります。何となく付けてみました。お時間があれば、広い心で御覧になってください。

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三流どこの補習学校教師野呂は、税務署吏員金森風吉の家に間借りしている。独身者だ。久かたぶりに銀座へ出て目をまわし、トラックに轢かれそこなった。当分右腕が利かず、学生泡田に代って黒板に字をかいてもらうが、かき賃一時間百円也を請求され、びっくりする。学校経営者の土建屋から夜間担任に格下げされ、無体な時間外勤務を強いられても文句ひとついえぬ野呂が、心ひそかに想うのは金森の娘--銀行事務員のカン子であった(映画.comより引用)。1953年公開作品。監督は市川崑で、出演は伊藤雄之助、小泉博、小林桂樹、越路吹雪、杉葉子、八千草薫、菅井一郎、加東大介、木村功、藤原釜足。
 
主人公である野呂役を演じる伊藤雄之助は、嶋田久作似の面長で、ボーっとした感じに癒されます。カン子役の越路吹雪は、宝塚OGなのに歌も踊りもなく、芯の強い現代風女性を演じています。看護婦の織壁さん役を演じた八千草薫は、今の上品なお婆さんのイメージが微塵もない若い頃なので、可愛いです(当時の八千草は宝塚在籍中です)。
 
原作が横山泰三の風刺漫画ということもあり、全編に毒気の強いブラックユーモアが散りばめられています。『黒い十人の女』も手掛けた脚本の和田夏十ならではのクールな持ち味です。
 
原作が風刺漫画だからなのか、本作中に実際にあった血のメーデー事件の映像が使用されています。後にノンポリで芸術家肌の映画監督という評価が定着する市川崑にしては、生々しさが漂う珍しい演出です。単にエキストラを集めなくていいという製作費の都合からかもしれませんけど。
 
毎日新聞に連載されていた原作漫画のテイストを出すため、複数のエピソードをテンポ良く繋いで構成しています。『この世界の片隅に』において、各エピソードの間を空けずに編集していることに似ています。
 
庶民のささやかな生活をユーモラスに描きながら、そこに社会の不穏な影を落とす物語も『この世界の片隅に』に通じるものがあります。ラストシーンで爆走するトラックは時代や社会システムの象徴であり、それに怯えながら生きる野呂は時代や社会システムの中で生き続ける、ちっぽけな人間の象徴です。若き市川監督が、ここまで攻めた映画を作ったのに、権力に迎合するかのような近頃のヘタレ映画屋は何なのかという気持ちになります。
 
★★★★☆(2017年4月27日(木)インターネット配信動画で鑑賞)
 
不安を煽る音楽を作った黛敏郎は、カン子の恋人役で出演しています。
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