【映画評】凶悪 | じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

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このブログは、田舎で暮らすおっさんの独り言を日々書き綴っています。ブログタイトルの「じゃんご」とは秋田弁で「田舎」のことで、偶然にもマカロニウエスタンの主人公の名前でもあります。何となく付けてみました。お時間があれば、広い心で御覧になってください。

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取材のため東京拘置所でヤクザの死刑囚・須藤と面会した雑誌ジャーナリストの藤井は、須藤が死刑判決を受けた事件のほかに、3つの殺人に関与しており、そのすべてに「先生」と呼ばれる首謀者がいるという告白を受ける。須藤は「先生」がのうのうと生きていることが許せず、藤井に「先生」の存在を記事にして世に暴くよう依頼。藤井が調査を進めると、やがて恐るべき凶悪事件の真相が明らかになっていく(映画.comより引用)。2013年公開作品。監督は白石和彌で、出演は山田孝之、ピエール瀧、池脇千鶴、小林且弥、斉藤悠、リリー・フランキー。
 
原作は新潮45編集部編『凶悪 ‐ある死刑囚の告発‐』であり、実際にあった凶悪事件を基にしています。同じく実際にあった凶悪事件を基にした『冷たい熱帯魚』とは、製作と配給が同じ日活です。日活は攻めていますね。本作は茨城上申書殺人事件を、『冷たい熱帯魚』は埼玉愛犬家連続殺人事件を基にしています。
 
本作の白石和彌監督は、次作でこれまた実際にあった稲葉事件を基にした『日本で一番悪い奴ら』を手掛けました。日本警察史上最大の不祥事と言われた、稲葉事件に手を付けるという白石監督のタブーなき姿勢は、映画を武器として権力に抗い続けた若松孝二に師事したからでしょう。
 
個人的な思い出話ですが、私は2012年1月の「ちば映画祭vol.4」で白石監督を生で見ています。白石監督の長編デビュー作『ロストパラダイス・イン・トーキョー』が上映され、その上映後のトークに来場したからです。『ロストパラダイス・イン・トーキョー』は残酷でリアルな現実を描きながらも、唐突にダンスシーンが始まったり、非現実的なラストにしたりする「映画的な嘘」を入れることによって作品の訴求力を高めるという、白石監督が新人とは思えない腕前を見せる映画です。本作でも、藤井(山田孝之)の取材時と「先生」こと木村(リリー・フランキー)の犯行時が転換する際の描写に「映画的な嘘」が用いられています。本作に『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で兄弟役を務めた小林且弥とウダタカキが出演しているのは、白石監督の信頼があったからでしょうか。
 
本作最大の見所は、須藤役のピエール瀧と木村役のリリー・フランキーの鬼畜演技であり、老人殺害シーンの胸糞悪さです。あれほど酷い悪魔の所業が現実にあったのですから、正に「事実は小説より奇なり」であります。ピエールもリリーも、テレビやラジオなどのマスメディアが世間に流布しているイメージと全く異なる顔を見せています。ピエールの場合、本作の演技が評価されたのか、『アウトレイジ最終章』にもヤクザ役で出演します。
 
おそらく原作にはないであろう、主人公である藤井の家庭事情をストーリーに加えたことで、本作のテーマ性は深化しています。藤井は認知症の母親の世話を妻(池脇千鶴)に押し付けて仕事に没頭しますが、妻からの訴えにより母親を施設に入所させることを決意します。しかし、誰かを犠牲にしながら自分の生活を守っている点で、老人を食い物にする木村や、その木村に老父を差し出すことで借金返済に充てた家族たちと変わりないのではありませんか。また、藤井は極悪非道な木村を断罪するのがジャーナリストとしての正義だと信じて行動します。しかし、それは須藤が獄中からの告発により木村の悪事を明るみに出し、自己満足を得ようとするのと同じではありませんか。
 
藤井が収監された須藤や木村と面会する時は、アクリル板を隔てて対面する形になります。それは、藤井が鏡に映った自分と対話しているようにも見えます。そうであれば、観客が藤井とアクリル板を隔てて対面している画になっている本作のラストシーンは、「あんたもこいつ(ら)と同じだよ」と突き付けられているようでもあるのです。
 
★★★★★(2017年4月11日(火)DVD鑑賞)
 
「大本営発表」を右から左に流し、権力者と会食することを恥じない大新聞やテレビ局の記者には、本作の藤井みたいなジャーナリストとしての苦悩などありはしないでしょう。
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