
殺し屋稼家に疲れた男が、死ぬための部屋を探して不動産屋の女係員と共に巡り歩いていく姿を描く(映画.comより引用)。1993年公開作品。監督は園子温で、出演は麿赤児、洞口依子、佐野史郎、高橋佐代子。
園子温監督初の35㎜フィルムによる劇場用長編映画です。並みの映画監督ならば、35㎜フィルムの大画面や高画質を活かして、色々と華やかに飾り立てるような作品にします。しかし、園監督は変わり者です。全編モノクロ、たった30シーンだけの長回し、ささやくように話す少ない台詞、ドラム音だけのBGMという独特すぎる映画に仕上げました。
これが園監督定番の作風ではなく、本作より前の8㎜フィルムや16㎜フィルムによる作品とも異なります。園監督作品に特徴的な「歩く(または走る)シーン」も少なく、殺し屋(麿赤児)と不動産屋(洞口依子)はほとんど電車移動しています。それまで評価を得ていたスタイルをあっさり捨てる、園監督の前衛的かつ挑戦的な姿勢が見えます。
長回しという手法は、人の手を加えず、素材ありのままを記録しているにもかかわらず、観ていると何故か落ち着きません。実のところ、人間は絶えず視線を動かし、見たものを無意識的に脳内編集して記憶しているので、視点を固定して編集していない長回しの映像は不自然に感じるものです。ましてシーンによっては3分もある本作の長回しでは、苦痛に感じることもあります。
これほど特殊な作品だと、「これは映画ではない!」という批判もありそうです。しかし、本作は数々の映画祭にも出品されており、一応映画として認められています。本作が映画であることを否定する者には、「それでは映画とは何ですか?」という映画の定義についての問いが返ってきます。映画の可能性を問題提起する本作は、園監督による挑発的な実験映画です。
★★☆☆☆(2017年4月4日(火)インターネット配信動画で鑑賞)
園子温と麿赤児は『うつしみ』でもコラボしています。