
隣人男性に拉致監禁され、1カ月にわたって弄ばれ続けた末に男を殺害して生き延びた女子高生・奈緒子。トラウマを抱えたまま成長した彼女は、昼間は不妊治療専門の女医、夜はSMクラブの売れっ子M嬢というふたつの顔を持つようになる(映画.comより引用)。2013年公開作品。監督は石井隆で、出演は壇蜜、間宮夕貴、中野剛、屋敷紘子、中山峻、諏訪太朗、伊藤洋三郎、中島ひろ子、竹中直人。
杉本彩がエロの後継者として指名した壇蜜が主演なので、杉本主演『花と蛇』と『花と蛇2 パリ/静子』の石井隆が監督しました。現在の杉本はエロからエコへキャラクター変更しましたが、『花と蛇』二部作ではハードなSM演技に体当たりで挑んでいました。本作でも壇蜜がハードなSM演技に挑戦しています(劇中にも出演しているプロ緊縛師の有末剛が緊縛指導しています)。
石井監督なので、「名美と村木」の物語構図をベースに忍ばせています。徹底して酷い目に遭わされる奈緒子(壇蜜、間宮夕貴)が名美で、不器用な片思いしかできないダメ男である監禁犯、藤田(中野剛)が村木でしょう。更に他の石井作品と同様、雨やシャワーを演出に用いたシーンがあり、常連俳優である竹中直人が出演しています。
本作は、17歳の奈緒子(間宮)が壮絶な体験によって負ったトラウマが、32歳の奈緒子(壇蜜)に影響するという内容です。故に過去と現在を反復する構成になっています。そうなると、間宮の方が強烈な仕打ちを受けている分、壇蜜が損をしているような感じがします(まあ、両者とも服を着ていないシーンだらけという試練は同じです。おかげでボカシ入りまくりですが)。
また『花と蛇』の杉本は見た目がSっぽい女がMとして責められるのに対し、本作の壇蜜はM嬢がSに目覚めるという設定になっています。しかし、壇蜜はルックスやキャラクターがM寄りなので、Sに目覚めたというアピールが弱いです。
ついでに言えば、壇蜜の台詞回しの拙さも気になります。ただし、「本当は変態である奈緒子が社会に適応するため、女医という職業を演じている」と解釈すれば、それほど気になりません。
本作では、17歳の奈緒子と32歳の奈緒子に加え、奈緒子の視点でありながら別の女優(喜多嶋舞)のナレーションが入るので、多重人格物のサイコスリラーということになります。そうなると、ラストにおける「あの白い手は誰?」という疑問に多様な解釈が生じます。この現実と妄想が混沌となる終盤は、どこかブライアン・デ・パルマ監督作品(例えば『殺しのドレス』)を思わせます。
★★☆☆☆(2017年3月14日(火)DVD鑑賞)
女優が体当たり演技をしているのに、男優が前張りをしているのは不思議です。