【映画評】少年 | じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

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このブログは、田舎で暮らすおっさんの独り言を日々書き綴っています。ブログタイトルの「じゃんご」とは秋田弁で「田舎」のことで、偶然にもマカロニウエスタンの主人公の名前でもあります。何となく付けてみました。お時間があれば、広い心で御覧になってください。

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戦争で人生を棒に振ったと思い込んでいる酔いどれの父親と、気の強い後妻、少年と幼い弟の4人は当たり屋で生活費を稼ぎながら日本を縦断する。この犯罪に呵責の念を感じるが、少年にはなにもいえない。やがて一家は逮捕されるが……(映画.comより引用)。1969年公開作品。監督は大島渚で、出演は渡辺文雄、小山明子、阿部哲夫、木下鋼志。
 
実際に起こった当たり屋一家の事件を基にした犯罪ロード・ムービーです。実録型の犯罪ロード・ムービーとして、日本映画だと『復讐するは我にあり』(西口彰事件)が、外国映画だと『俺たちに明日はない』(ボニー&クライド事件)が有名です。本作の場合、家族による犯行である点に特異性があります。
 
少年役の阿部哲夫が、大人への媚びや愛想のない演技をしています。いかにも子役らしい、媚びた演技が大嫌いな私としては高評価です。大島渚監督は、少年役のキャスティングをするに当たって、劇団にいる子役を避け、児童養護施設にいた阿部を選んだそうです。大島監督も、いかにも子役らしい演技が嫌いだったのでしょうチビ役の木下スタッフの子供です
 
本作は実際の事件と同じ足取り(高知県から北海道まで)をたどり、時間順に撮影しています。それ故、少年とチビは作品の中で成長しています。また、母親役の小山明子は、撮影期間中に演じた役と同様に妊娠しており、その子が大島監督の次男で、現在ドキュメンタリー監督の大島新です。映画というフィクションでありながら、記録映像というノンフィクションでもあるのが本作です。
 
製作費1,000万円という低予算映画なので、必要最小限のスタッフとキャストで撮影されています。予算捻出のため、小山と父親役の渡辺文雄がロケ地でサイン会を行ったというエピソードがあります。それどころか、シーンによってカラーからモノクロに変わるのは、何らかの演出意図があったのではなく、カラーフィルムが足りなくなったからという説もあります(当時はカラーフィルムが高価だったから)。そこまでして映画を完成させたかった大島監督の執念が感じられます。
 
大島作品は一筋縄ではいかない多重性を有しているので、色々と深読みできます。例えば、国旗を掲げている街の背景や、雪原に滴り落ちる赤い血の画が印象的に挿入されており、それらが日の丸をイメージさせます(上掲の映画ポスターも日の丸のイメージです)。かつてGHQ総司令官ダグラス・マッカーサーが残した「日本人は現代文明の標準からみてまだ12歳の少年である」という言葉を併せて考えると、主人公の少年は日本のメタファーであると解釈できます。そして、傷痍軍人である父は戦前の日本で、後妻である母は戦後のアメリカであると解釈すれば、本作は戦後日本についての物語になります。それでは、少年が犯罪を重ねていく中で成長し、自分が原因となった自動車事故で人が死んだことを受け入れた時に自立するという物語は、何を意味するのでしょうか。そこに大島監督の歴史観や国家観が表現されているのです。
 
★★★☆☆(2017年2月21日(火)DVD鑑賞)
 
秋田市でもロケを行っており、当時の秋田駅の姿を見ることができます。
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