
室町時代、伏影城の城主は家老の坂上主膳に謀られ非業の死を遂げる。城主の息子である結城重太郎は辛うじて逃げ延び、父の仇を討つ機会を伺っていた。数年後、重太郎は城下に現れるが、主膳の妹で忍者の螢火に重症を負わされてしまう。そんな彼を救ったのは、伏影城に恨みを抱く忍者の影丸だった(Yahoo!映画より引用)。1967年公開作品。監督は大島渚で、声の出演は山本圭、松本典子、佐藤慶、福田善之、観世栄夫、小山明子、戸浦六宏、小松方正、渡辺文雄、小沢昭一。
白土三平の忍者漫画が原作で、原画そのものを撮影し、それを編集した映像に役者の声を当てるという斬新な手法で作られた映画です。大島渚は『ユンボギの日記』において、スチール写真を編集した映像にナレーションを当てるという手法を用いており、それを短編から長編に、写真から漫画に応用したということです。
田河水泡の『のらくろ』など戦前の漫画は、コマの大きさが割と均一で、そこにキャラクターを配置する絵巻物や絵物語に近い手法で描かれていました。それに対し、手塚治虫以降の戦後の漫画は、コマの大きさを変化させ、寄りや引きの画を用いる映画的な手法を取り入れ、発展していきました(コマの大きさは、映画における1カットの時間を表現していると言えます)。また、映画作りにおいては、撮影や美術のスタッフに監督のイメージを伝えるため、漫画のような絵コンテが用いられます。それらを踏まえると、本作のような漫画と映画の直接的な結合は無理ではありません。
本作の手法を選んだ理由はそれだけではありません。原作漫画の実写化はスケールが大きく、大島の独立プロダクション会社「創造社」では製作不可能だったからでもあります。それに大島が松竹退社後、東映で時代劇『天草四郎時貞』を監督した時の不自由さを知っていたからというのも、理由の一つかもしれません。
声の出演に佐藤慶、戸浦六宏、小松方正、渡辺文雄、小沢昭一ら大島作品常連俳優が名を連ねます。本作を観ると、彼らが味のある格好良い声の持ち主だと分かります。後の彼らにテレビ番組のナレーターの仕事が来たのも納得です。
織田信長や明智光秀が登場する戦国時代劇でありながら、武将同士の戦いより、武将(支配者)対農民(被支配者)の戦いを中心とした物語です。戦乱で最も被害を受けるのは武将ではなく、名も無き多くの民なのです。
その農民たちのために暗躍するのが、影丸率いる影一族です。影一族は人間離れした特殊能力者の集団で、それぞれが悲しい人生を送ってきたことから、戦国版『X-MEN』と言ってもいいほどです。どこにも属さず、何者にも仕えずに、抑圧された被支配者層がいれば共に戦うという影一族の姿勢は、革命家の理想像であり、映画公開時に多くの共感を集めたことでしょう(現実の革命家は権力を握ると堕落しますから)。
★★★☆☆(2017年2月3日(金)DVD鑑賞)