
迷子の秋田犬を拾い、ハチと名付けて飼い始めた大学教授のパーカー。ハチは毎日夕方5時に駅前でパーカーの帰りを待つようになるが、ある日、パーカーは大学の講義中に倒れ、帰らぬ人に……(映画.comより引用)。2009年日本公開作品。監督はラッセ・ハルストレムで、出演はリチャード・ギア、ジョーン・アレン、ケイリー=ヒロユキ・タガワ、サラ・ローマー、ジェイソン・アレクサンダー。
有名な「忠犬ハチ公」の実話をアメリカでリメイクした映画です。パーカー役を演じるリチャード・ギアは愛犬家で、出演だけでなく製作も兼ねています。ギアは日本と縁があり、本作以外で黒澤明監督の『八月の狂詩曲』、米国リメイク版『Shall we Dance? シャル・ウィ・ダンス?』にも出演し、サントリー「オランジーナ」のCMで寅さん役まで演じています。
「忠犬ハチ公」の実話を映画化したというより、映画『ハチ公物語』をリメイクしたという感じでしょうか(エンドクレジットに同作が記されていますから)。実話→映画化→海外リメイクと段階を経ているので、元の話と異なる部分が多いのは当然です。大目に見ましょう。
ラッセ・ハルストレム監督の個性が出ているとすれば、「他者との交流による化学反応」の要素です。ハルストレム監督の『ギルバート・グレイプ』、『サイダーハウス・ルール』や『ショコラ』では、他者との出会いによって自分の殻を破る者が描かれています。本作の場合、人間と犬という種の違いに加え、アメリカと日本という文化の違いまであります。パーカーとハチの偶然の出会いは、お互い(の周囲)にどんな変化をもたらすかが本作の主眼でしょう(スウェーデン出身でハリウッドに招かれたハルストレム監督にとって、他人事ではないテーマです)。
撮影するシーンに合わせ、3頭の秋田犬を使い分けたという努力は評価できますが、残念な点があります。時折ハチの主観的視点から見た世界(犬は人間より色覚が乏しいので、意図的に画像を加工しています)が入るのは良いとしても、死に際のハチがパーカーとの思い出を走馬灯のように振り返る演出は、やり過ぎだと感じました。動物に人格を持たせる「動物の擬人化」は、作り手の予想以上に、あざとく映ります。リアリティが減退し、「所詮お涙頂戴かよ」と興醒めしてしまいます。優れた映画が説明過剰な台詞を排し、役者の表情だけで観客を魅了するように、動物相手の演出でも、そうあってほしいのです。
★★★☆☆(2016年12月15日(木)DVD鑑賞)
実際のハチ公の故郷は秋田県大館市です(本作では山梨あたりになっていました)。