【映画評】セックス・ハンター 濡れた標的 | じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

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このブログは、田舎で暮らすおっさんの独り言を日々書き綴っています。ブログタイトルの「じゃんご」とは秋田弁で「田舎」のことで、偶然にもマカロニウエスタンの主人公の名前でもあります。何となく付けてみました。お時間があれば、広い心で御覧になってください。

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ベトナム戦争の暗い影が立ちこめる頽廃の基地の街を舞台に、米兵に凌辱され自殺した妹の仇を討つべく、夜の街をさまよう男を描く(映画.comより引用)。1972年公開のにっかつロマンポルノ作品。監督は澤田幸弘で、出演は青山美代子、伊佐山ひろ子、ジョージ・ハリソン、高橋明。
 
澤田幸弘は日活撮影所育ちなので、アクションシーンも含め、しっかりとした演出をしていますにっかつロマンポルノは、日活撮影所のスタッフや技術を継承しているので、映画としての質が悪くありません。澤田は日活繋がりで石原プロモーションとの仕事が多く、テレビドラマの『太陽にほえろ!』や『西部警察』も監督したので、私の世代は意識せずに澤田の演出を目にしていることになります。
 
脚本の大和屋竺は監督作『荒野のダッチワイフ』のようにシュールで観念的な表現を入れてきます(ちなみに『荒野のダッチワイフ』の山下洋輔カルテットによる音楽は耳に残ります)。鈴木清順監督の『殺しの烙印』に脚本参加(名義は「具流八郎」)していますが、やはり「何じゃこりゃ?」なストーリーになっています。大和屋は実写映画だけでなく、アニメ映画『ルパン三世 ルパンVS複製人間』の脚本も手がけており、私の世代は意識せずに大和屋の表現に触れていることになります。
 
本作では「赤い鳥居」が大和屋らしい観念的な表現です。赤い鳥居の下で主人公の妹・夏子(青山)は米兵にレイプされ、首を吊って自殺します。この赤い鳥居は「日本」のメタファーで、レイプ事件に日米関係が投影されています。
 
本作の性交シーンは、どれも暴力的で愛を感じられず、殺伐として陰鬱なムードを高めています。米兵たちはレイプした夏子に小便をかけ、それを通りすがりの黒人に舐めさせます。こんなシーンを見せられたら、「白人米兵死ね」という怒りが湧いてきます。しかし、レイプした米兵たちはベトナムに送られ、戦死するか不具者となって帰還するかという悲惨な末路を辿ります。復讐を遂げられなかった主人公・春彦(ハリソン)と同様、怒りのやり場を失った観客に悶々とした感情が残ります。
 
今も米軍は日本に駐留し続けているので、本作は昔話でも絵空事でもなく、現在進行形的な物語です。赤い鳥居の下を白痴同然の悦子(伊佐山)がふらふらと歩くラストシーンには、「こんな日本では白痴にならないと生きていけない」という強烈な皮肉が込められています。
 
★★★☆☆(2016年11月17日(木)DVD鑑賞)
 
本作のジョージ・ハリソンは、あの超有名バンドのギタリストとは別人です(当たり前)。
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