
米海軍特殊部隊ネイビー・シールズの隊員クリス・カイルは、イラク戦争の際、その狙撃の腕前で多くの仲間を救い、「レジェンド」の異名をとる。しかし、同時にその存在は敵にも広く知られることとなり、クリスの首には懸賞金がかけられ、命を狙われる。数多くの敵兵の命を奪いながらも、遠く離れたアメリカにいる妻子に対して、良き夫であり良き父でありたいと願うクリスは、そのジレンマに苦しみながら、2003年から09年の間に4度にわたるイラク遠征を経験。過酷な戦場を生き延び妻子のもとへ帰還した後も、ぬぐえない心の傷に苦しむことになる(映画.comより引用)。2015年日本公開作品。監督はクリント・イーストウッドで、出演はブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー、ルーク・グライムス、ジェイク・マクドーマン、ケヴィン・ラーチ。
主演のクーパーは、実在したクリスに似せるため、体重を増やす役作りをしています。プロデューサーも兼任するほどの、彼の意気込みを感じさせます。
イラクの戦場描写はリアリティ重視で、狙撃兵と爆弾処理班の違いはありますが、『ハート・ロッカー』と同様の緊張感を味わえます。それが、「レジェンド」と称されるクリスのヒロイズムなど存在しない戦争の現実を表しています。
他のイーストウッド監督作品と変わらず、冷たく達観した姿勢は貫かれています。アメリカ兵であるクリスも、彼を狙うイスラム兵も冷静に人の命を奪う残酷さを持つ一方、家族を愛する人間らしさを持つことを描き、単純で安っぽい善悪のレッテル貼りを回避しています。
また、テキサスのカウボーイであったクリスが、祖国を守る狙撃兵になる点に、西部劇出身のイーストウッドの思いが反映されているようです。かつて『許されざる者』を監督したイーストウッドが、カウボーイを狙撃兵に置き換え、再びダークな「西部劇」を撮ったようにも感じるからです(「賞金首」という要素は西部劇的です)。
西部劇の暗黒面を描いた『許されざる者』、戦争の英雄の裏側を描いた『父親たちの星条旗』、そして両作品の要素を合わせたかのような本作は、イーストウッドの中にある、理想のアメリカ像が時代とともに変質していることへの嘆きと、それに対する批判が込められていると思われます。そして、その変質によって失われた何かは、アメリカ国民だけでなく、全人類にも共通する問題であるかのようにも思われるのです。
★★★★☆(2016年5月25日(水)DVD鑑賞)
『ハングオーバー』シリーズあたりと比較すると、クーパーの役作りの凄さが分かります。