
げんと碧郎は作家の父を持つ姉弟だ。家には継母がいるのだが、彼女は二人に冷淡で、家庭は貧しく暗かった。碧郎は友達と万引きをして警察に補導されるなど、素行が不良になりつつあった。しかし姉のげんは、そんな碧郎のことを大切に思い、時に叱りながらも世話をしてやるのだった(Yahoo!映画より引用)。1960年公開作品。監督は市川崑で、出演は岸恵子、川口浩、田中絹代、森雅之。
幸田文の原作小説を水木洋子が脚色しています。市川監督は、妻の和田夏十が書いたシナリオで撮ったり、自分や他の脚本家が書いたシナリオでも和田にチェックしてもらったりしていたので、いわゆる女性的感覚というものに抵抗が無かったでしょう。ちなみに山田洋次が市川監督へのオマージュとして同名の『おとうと』を監督していますが、同作は山田と平松恵美子がシナリオを書いています。
姉のげん役を岸が若々しく、表情豊かに演じています。市川監督作品は、男が優柔不断で頼りなく、女が決断力があって頼もしいという世界観に基づくので、岸のキャラクターが作品に適しています。
弟の碧郎役の川口は、やんちゃな冒険をして姉に迷惑をかけながら、繊細な内面を抱えている青年像を演じています。冒険好きという本作のキャラクターが、後に「川口浩探検隊」を結成させる下地になったかどうかは不明です。
『鍵』でも組んだ大映の宮川一夫カメラマン流の陰影の濃さに加え、本作では「銀残し」という現像方法により色彩を抑えています。それ故、モノクロ映画に近いところまでコントラストが明確です。家屋の中のシーンは、昼間でも真っ暗です。しかし、作品の時代背景(大正時代)を考慮すれば、現代ほど照明器具の性能が良くないので、リアリティのある表現と言えます。
照明という観点から、本作で面白かったシーンがあります。碧郎の臨終に立ち会うため、母(田中)が病室に訪れるシーンで、看護婦の一人が電灯の位置を直します。何気なく行っている動作ですが、これは前後のシーンの印象を変えるための演出をストーリーに組み込んでいるのです。看護婦役は歌舞伎の黒子の役割を担い、それまで全体的に暗かった病室を、電灯の位置を直すことで、碧郎と母の二人だけにスポットライトを当てたかのように明るくします。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で、BGMを奏でる火吹きギター&太鼓隊が劇中の配役に組み込まれているという面白い演出があり、本作と通じるものを感じます。お涙頂戴な感動の余韻を打ち切る、唐突なラストも含め、市川監督の遊び心が見えてくるのです。
★★★☆☆(2015年12月17日(木)テレビ鑑賞)
岸恵子のことを「パリのおばさま」と呼んでも、今時の若い者に通じるかどうか。