
北海道の雪深い町の駅舎を舞台に、鉄道員として生きたひとりの男の姿を綴ったドラマ(映画.comより引用)。1999年公開作品。監督は降旗康男で、出演は高倉健、大竹しのぶ、広末涼子、吉岡秀隆、安藤政信、志村けん、奈良岡朋子、田中好子、小林稔侍。
東映時代から遺作『あなたへ』まで、高倉の信頼を得て、数多くの作品で組んできた降旗監督なので、安定感はあります。また、高倉出演作品の常連カメラマンである木村大作は、北海道の風景を美しく撮影しています。あまりに美しすぎて、高倉ら出演者の存在感が負けている気もします。
回想シーンをモノクロにすることで、過去と現在を明確に区別する工夫がされています。ただパートカラーとして入れる赤色は、妻(大竹)のベストだけにして、蒸気機関車で燃え盛る石炭や、労働組合の鉢巻と腕章に使う必要はなかったのではないか、という疑問はあります。
本作の企画は、当時の東映スタッフが定年退職を迎える時期で、高倉サイドから最後に一仕事したいという希望があったことから始まったという話があります。すなわち、高倉やスタッフの私情からスタートした映画ということができます。
そのためでしょうか。高倉も自分のプライベートを解禁しています。高倉演じる乙松は、生まれたばかりの一人娘を亡くし、妻に先立たれています。これは高倉と江利チエミの夫婦関係と類似しています。しかも、劇中で何度も流れる「テネシーワルツ」は、江利のヒット曲です。高倉が終盤の「奇跡」で見せる演技には、私情が込められているはずです。
また、本作における「鉄道」は「映画」に置き換えることができます。鉄道しか知らない鉄道員である乙松は、映画しか知らない映画俳優である高倉健です(映画の延長上にあるCMやテレビドラマに出演しますが、舞台演劇やバラエティ番組には手を出しませんから)。鉄道の廃線、その終着駅にいる鉄道員の死は、高倉とスタッフが生きてきた時代の映画の終わりを意味します。鉄道のレールを空から見れば、映画のフィルムによく似ていますから、一層その思いが強くなるのです(本作公開後、デジタル撮影の映画が主流になり、デジタル上映のシネコンが全国展開しているので、フィルムの映画は過去のものになりつつあります)。
★★★☆☆(2015年12月13日(日)テレビ鑑賞)
高倉と志村の「Wけんさん」の共演も本作の見所です。