
気ままな旅を続けていた青年が人妻にひと目惚れしたことから始まる愛憎入り交じる三角関係を描く(映画.comより引用)。1992年公開作品。監督は石井隆で、出演は大竹しのぶ、永瀬正敏、室田日出男。
石井監督にしては珍しくオリジナル脚本ではなく、西村望の『火の蛾』を原作にしています。それでも石井作品には付き物の雨のシーンがあります。屋外での雨降りだけでなく、屋内でもシャワーを雨に見立てます。
当時の大竹は、まだ「きれい」の段階にあります。後に『黒い家』で感情のない異常殺人鬼役を演じた頃から、「怖い」の印象が強いモンスター女優になっています(元夫は「お笑い怪獣」と若手芸人から恐れられていますが)。
永瀬が演じる若者は、今だったらストーカーと呼ばれるクレイジーな役柄です。無口で大人しい青年かと思っていたら、突然歌い出したり、踊り出したりします。この演出には、製作時ゆえのバブルの残り香を感じてしまいました。
物語の大半は、妻(大竹)と若者(永瀬)の関係を描写することに割かれており。妻と夫(室田)の関係については、それほど描写されません。しかし、若者との密通を知った夫が、妻と二人きりの車内でカーラジオで流す、ちあきなおみの『黄昏のビギン』により十分に説明されています。クラシックや洋楽ではなく、歌謡曲(しかも雨の歌)を使用することで夫のキャラクターを表現しているのです。
夫は妻を不器用ながらも愛しており、彼女のために地方都市で不動産業を営んでいます。非インテリの平凡な男には、歌謡曲が似合います。不貞を働いた妻に対しても暴力を振るわない優しい男です。そんな善人が殺されてしまうことが衝撃的なのです。
妻を来訪するも入室させてもらえない若者が、ドアの新聞受けから腕だけ出して暴れるホラー的演出もあります。奇抜な演出をしても物語が破綻しないのは、長回し多用で役者を信頼している石井監督と、その信頼に応えた役者の関係が上手く作用したからだと思います。
★★★☆☆(2015年11月4日(水)DVD鑑賞)
竹中直人と岩松了が面白い役で出演しています。