【映画評】チャイナ・シンドローム | じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

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このブログは、田舎で暮らすおっさんの独り言を日々書き綴っています。ブログタイトルの「じゃんご」とは秋田弁で「田舎」のことで、偶然にもマカロニウエスタンの主人公の名前でもあります。何となく付けてみました。お時間があれば、広い心で御覧になってください。

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テレビ局の女性キャスターが、原子力発電所を取材中に原子炉事故を目撃したことを発端とする、明日にも起こりうる悪夢を描くサスペンス・アクション映画(映画.comより引用)。1979年日本公開作品。監督はジェームズ・ブリッジスで、出演はジェーン・フォンダ、ジャック・レモン、マイケル・ダグラス、スコット・ブラディ。
 
架空の原発事故を題材にしながら、アメリカ公開の12日後にスリーマイル島原発事故が現実に起こったので、話題になった作品です。本作で問題提起したのもかかわらず、人類は学習能力が鈍麻しているのか、チェルノブイリ原発事故や福島第一原発事故を起こしています。
 
ダグラスはカメラマン役で出演しただけでなく、プロデューサーも兼任しています。本作以前に『カッコーの巣の上で』をプロデュースした実績のあるダグラスは、制作側で映画界入りし、俳優に転向しています。俳優カーク・ダグラスを父親に持ちながら、能天気な七光り二世俳優ではなく、社会派作品を世に出し、私生活では反原発活動家としての顔もあります。
 
ダグラスと言えば、『危険な情事』や『氷の微笑』に出演しているので、「エロ事師俳優」のイメージが強かった私にとって、意外な事実です。配偶者がキャサリン・ゼタ=ジョーンズというのも、エロのイメージに拍車をかけていましたから。考えてみたら、『危険な情事』も『氷の微笑』も、それなりの地位にある中年男性が女性に酷い目に遭わされる作品であり、アメリカ的マッチョイズムに対する批判なのかもしれません。
 
日本の「エロ事師俳優」と言えば、渡辺淳一原作作品で活躍した津川雅彦の名を挙げます。津川の父親は、戦前の映画スター沢村国太郎ですから、ダグラスと共通点もあります。しかし、体制に媚びるかのような右寄り発言をし、マキノ雅彦名義での監督作品の出来が今一つの津川は、ダグラスには到底及びません
 
技師役を演じたレモンは、『お熱いのがお好き』などの喜劇が本職ですが、本作ではシリアスな名演技を見せてくれます。喜劇俳優(コメディアン)はシリアスな芝居も上手いというのは、映画やテレビドラマでは、よくあることです。昔だったら『飢餓海峡』の伴淳三郎がそうですし、今だったらビートたけしが代表的です。
 
本作はドキュメンタリー調で演出されているので、BGM(劇伴)がありません。しかし、BGMの効果が観客の心理をコントロールすることにあるとすれば、原発内の無機質な機械音が観客の不安を煽るBGMになっているとも言えます。
 
本作のように原発(事故)を題材にした映画が、日本にもあったでしょうか。1978年に黒木和雄監督の『原子力戦争』が公開されています。福島第二原発へのアポなし突入シーンまである本作は、後にビデオ化されましたが廃盤になり、長らくテレビ放送もされませんでした。DVD化されたのは福島第一原発事故後の2011年12月7日です。
 
2004年には、山川元監督の『東京原発』が公開されています。福島第一原発事故後の現在だったら、広く知られた原発の問題点を提示していながら、堅苦しさはなく、ブラックユーモアの効いた面白い作品です。ところが、山川監督は本作以降、映画を撮っていません。自分の意思で撮っていないのではなく、何者かによって撮らせてもらえないのでしょうか。
 
福島第一原発事故後の2012年には、園子温監督の『希望の国』が公開されています。フィクションという設定を取りながら、フクシマの問題に真っ向から取り組んでいます。『愛のむきだし』や『冷たい熱帯魚』が高評価を得たことで、映画製作のスポンサーが多数あった園監督でしたが、原発事故の映画を撮る企画があるという噂が広まると、そのスポンサーたちが引き潮のごとく撤退したそうです。結果的に『希望の国』は、海外スポンサーを付けることによって完成しました。
 
このように日本で原発(事故)を題材にした映画を作ることは、非常にリスクが大きいことが分かります。一体誰が何を恐れ、映画を作らせないのか。それは、福島第一原発事故から30年以上も前に作られた本作を観れば、理解できるでしょう。
 
★★★★☆(2015年9月26日(土)DVD鑑賞)
 
チャイナ・シンドロームはメルトダウンによる核燃料漏れを表す造語です。
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