【映画評】天城越え | じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

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このブログは、田舎で暮らすおっさんの独り言を日々書き綴っています。ブログタイトルの「じゃんご」とは秋田弁で「田舎」のことで、偶然にもマカロニウエスタンの主人公の名前でもあります。何となく付けてみました。お時間があれば、広い心で御覧になってください。

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十四歳の少年と娼婦が天城峠を旅しているとき起きた殺人事件と、三十年間、事件を追い続けた老刑事の姿を描く(映画.comより引用)。1983年公開作品。監督は三村晴彦で、出演は渡瀬恒彦、田中裕子、伊藤洋一、平幹二朗。
 
石川さゆりの名曲ではなく、松本清張の小説を映画化したものです。出演者は上記の他に、吉行和子、樹木希林、石橋蓮司、柄本明、坂上二郎、北林谷栄、加藤剛という豪華な顔ぶれです。更に伊藤克信、車だん吉、阿藤海、汐路章(『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』の映画評を参照)というイイ味を出してる脇役もいます。
 
娼婦役を演じる田中が凄いです。少年と触れ合っている時の可愛さ、客に身を委ねている時の妖艶さ、刑事との取調べの時のアバズレ感という、一人の女の多面性をエグいほど強烈に演じています。取調べの時の失禁シーンは仕掛けなしで本当にやったという話もあります。鬼気迫るものを感じます。
 
近年の田中は、『家路』やNHK朝の連続テレビ小説『まれ』で、お婆ちゃん役を演じています。思うに、田中は「次世代の樹木希林」枠を目指しているのではないでしょうか。二人とも文学座出身で、それぞれの夫(田中は沢田研二で、樹木は内田裕也)は旧知の仲のロックンローラーというつながりもありますから。
 
本作の冒頭で、川端康成の『伊豆の踊子』への言及があります。清張は同作を意識して執筆したと言われています。すなわち本作の原作小説は「俺ならこう書く『伊豆の踊子』」ということです。確かに物語の舞台は同じで、旅芸人一座と娼婦は賤業と見られるという共通点もあります。そこに「封印された過去の犯罪」という、他作品にも見られるミステリー要素を入れるのが清張らしさです。
 
また、本作の時代設定が昭和15年となっており、原作の大正15年頃から変更されています。昭和15年は日本の軍国主義化が加速していた時期で、作中にもそれを示す描写があります。戦争という国家による大量殺人が正気の沙汰とされ、一人の少年による殺人が罪となるという対比です。これは『チャップリンの殺人狂時代』と共通するメッセージなのだと思いました。
 
★★★☆☆(2015年9月10日(木)DVD鑑賞)
 
松本清張、略して「マツキヨ」(©みうらじゅん)
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