【映画評】海炭市叙景 | じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

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このブログは、田舎で暮らすおっさんの独り言を日々書き綴っています。ブログタイトルの「じゃんご」とは秋田弁で「田舎」のことで、偶然にもマカロニウエスタンの主人公の名前でもあります。何となく付けてみました。お時間があれば、広い心で御覧になってください。

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造船所からリストラされた貧しい兄妹、立ち退きを拒否する老婆、妻の裏切りに傷つくプラネタリウムで働く中年男、事業と家庭に問題を抱える若社長、息子に避けられ続ける路面電車の運転士など、地方都市の憂うつと再生を繊細なタッチで描きだす(映画.comより引用)。2010年公開作品。監督は熊切和嘉で、出演は谷村美月、竹原ピストル、小林薫、南果歩、加瀬亮、三浦誠己。
 
本作の舞台は、函館市をモデルにした「海炭市」です。北海道出身の熊切監督は、『空の穴』で田舎の空気感をリアルに表現しました。本作において、その表現力は更に増し、地方都市のどん詰まり感を切ないほどに描いています。その寒々しさは、アキ・カウリスマキ監督の『マッチ工場の少女』の絶望感に匹敵します。
 
演技派キャストによる5つの物語が交錯します。誰かが主人公というわけでもなく、正に海炭市の「叙景」です。
 
ガス会社の若社長(加瀬)の息子、アキラ(小山燿)は、愛なき家庭で母親から虐待を受けます。アキラはプラネタリウムに映る天空の星空に救いを見出そうとします。リストラされた貧しい兄妹(竹原、谷村)は、星空が地上に降りたような夜景を美しい思い出にします。
 
彼らは星空という地上ではない場所に希望を見ようとします。本作と同時期に公開された園子温監督の『冷たい熱帯魚』の主人公も、プラネタリウムの星空を愛していました。地上を見捨て、天空を眺めていたら、2011年3月11日、大地が揺れ、地上に絶望的な現実が現出しました。そして映画も「ここではない何処か」に逃避せず、現実に直面せざるを得なくなりました。園監督は『ヒミズ』と『希望の国』を撮りました。本作と『冷たい熱帯魚』、そして現実に起こった未曾有の大災害には、単なる偶然とは思えない物語性があります。
 
本作で描かれる絶望的な状況は、日本全国の地方都市に共通しています。地方は疲弊し、廃れています。本作の老婆(中里あき)を強制退去させ、商業団地を作っても、焼け石に水です。お上が「成長戦略」だの「地方創生」だの声を上げたところで、どれほどの効果があるものでしょうか。
 
そんな絶望的な現実であっても、ラストで老婆の飼い猫が新しい命を孕んだように、市井の人々の物語は続いていきます。人間の汚い部分を悲観的に描きながら、それでも生きる逞しさへの讃歌にもなっている点で、本作は非常に優れています。
 
★★★★★(2015年6月3日(水)DVD鑑賞)
 
本作には大森立嗣監督が役者として出演しています。探してみましょう。
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