批評家・宇野常寛が「日本文化最大の論点」と言い切るAKB。その第5回総選挙では、大島優子を抜いて指原莉乃が1位となった。発表の際、アナウンサーが「災い転じて福となす」と言ったとおり、恋愛スキャンダルという「不祥事」とそれに伴う左遷がなければ、このような大逆転劇は起こらなかったに違いない。
筆者はこれをyoutubeで見ながら、ある漫画のことを思い出していた。というか、連想していた。それは週刊少年ジャンプの看板漫画の一つ「トリコ」だ。
現在アニメ化もされ、ワンピースと同格の扱いを受けることもある人気作品だが、作者にはかつて「不祥事」を起こした過去がある。2002年、同誌で「世紀末リーダー伝たけし!」を連載中、作者しまぶーこと島袋光年は、児童買春禁止法違反で逮捕されてしまったのだ。「たけし」は当時大人気の作品であり、同業の漫画家の中には彼を擁護する者もいた。しかし「たけし」の連載は打ち切られ、単行本は絶版となった。6年ぶりにジャンプで連載再開した「トリコ」が「たけし」以上の人気を博していることには、直接に作品のファンではない人間でも、感じ入ってしまうところがある。
筆者はこれをyoutubeで見ながら、ある漫画のことを思い出していた。というか、連想していた。それは週刊少年ジャンプの看板漫画の一つ「トリコ」だ。
現在アニメ化もされ、ワンピースと同格の扱いを受けることもある人気作品だが、作者にはかつて「不祥事」を起こした過去がある。2002年、同誌で「世紀末リーダー伝たけし!」を連載中、作者しまぶーこと島袋光年は、児童買春禁止法違反で逮捕されてしまったのだ。「たけし」は当時大人気の作品であり、同業の漫画家の中には彼を擁護する者もいた。しかし「たけし」の連載は打ち切られ、単行本は絶版となった。6年ぶりにジャンプで連載再開した「トリコ」が「たけし」以上の人気を博していることには、直接に作品のファンではない人間でも、感じ入ってしまうところがある。
同じように「不祥事」から復活して売れっ子になった漫画家として、「ちはやふる」の末次由紀がいる。2005年、他の漫画家からの構図の盗用が判明し、やはり連載は打ち切り。すでに雑誌の主要作家としてキャリアを積み、単行本も多く出ていたがなんと全作絶版となってしまった。
構図の盗用とは、いわゆる「パクリトレース」のことだ。漫画業界の根幹を揺るがす一大問題として今も議論されている。写真などをトレースすることは昔から行われている一般的な技法であり、ジャンルによってはトレースなしには成立しない場合もある。問題はトレースという技法自体にあるのではなく、トレース元の画像に著作権があり作者に法的手段を行使された場合、とてもややこしいことになってしまう、ということだ。
(末次由紀がトレースしたのは「スラムダンク」だが、「スラムダンク」もNBAの写真集なんかを多数トレースしている。またこの議論は、そもそも真にオリジナルなものなどあり得ない、という議論だとか、同人誌などの二次創作物はどうなんだ、という議論にまで及ぶ)
(末次由紀がトレースしたのは「スラムダンク」だが、「スラムダンク」もNBAの写真集なんかを多数トレースしている。またこの議論は、そもそも真にオリジナルなものなどあり得ない、という議論だとか、同人誌などの二次創作物はどうなんだ、という議論にまで及ぶ)
とにかく、末次由紀は逮捕すらされていないし、誰にも訴えられていない。にも関わらず業界を“追放寸前”のところまで追いやられた。しかし復帰第一作「ちはやふる」はマンガ大賞を受賞、「このマンガがすごい!」ランキングでも一位を取り、アニメ化もされて少女マンガ界における最大級のヒット作品として現在も人気を博している。
ちなみに、音楽業界では「不祥事」→復活というのはまったく珍しいことではない。岡村靖幸、井上陽水、槙原敬之、長渕剛、美川憲一といった大御所にも立派な逮捕歴がある。
災い転じて福となす、つまり「不祥事からの見事な復活」の陰には、社会的制裁としてペナルティを受けた者に対して同情・応援が集まる、というメカニズムが働いているのだろうか?
さっしー : 恋愛スキャンダル(AKBルールでは明らかにアウトだが、法律や一般常識の範疇)
しまぶー : 未成年売春(法的には明らかにアウトだが、誰かの生命や財産を傷つけたわけではない)
末次 : 他の漫画のトレース(法的にはほとんどアウトだが、刑事事件になっていない)
ミュージシャン : 麻薬(法的には明らかにアウトだが、誰かの生命や財産を傷つけたわけではない)
もし大衆の中で、そういったメカニズムが働いているとすると、建前と本音の以下のような対立が存在することになる。
建前=不祥事を起こしたのだから、公的にはペナルティを受けるべき。
本音=人格や作品を否定するまでのことではない。こんなことで潰れるのはもったいない。
大衆の潜在意識には、「既存の枠組みを破壊してほしい」という願望が隠れているのではないだろうか。理不尽なルールを、「みんな」が自分と同じように受容することを期待しつつ、同時に「誰か」がその理不尽さに反抗することを期待するという、少しだけズルい思惑が。
「トリコ」「ちはやふる」が人気を集めた理由は同情に由来する応援などではなく、作品それ自体の質の高さだと思う。少なくとも、同情によるものだと断定することは難しい。だが、指原莉乃の場合は明らかに事情が違う。前の総選挙では3位だったわけだしアイドルとしての能力に申し分はない。また、博多に移ってからの活躍も十分な評価に値する。
同情、なんて大それたものではなく、単に話題性、なのかもしれない。それでも災い転じて福となったことに変わりはない。
今回重要なのは、いったんペナルティを受けた者を、世の中が排除するのではなく、むしろ前以上に“推す”ことを容認する空気が、世の中に満ち満ちていることが証明されたということである。最近下獄したホリエモンも、犯罪人だという扱いは一切されていない。のりぴーだって復帰の瞬間をみんなが今か今かと待ち望んでいるではないか。
直感だけで言わせてもらえば、非正規雇用が当たり前になり、既存のあらゆる価値観が混乱し、政治も経済も不安定な現代日本では、誰もが自分をとりまく現状から解放されたい、道を踏み外してみたいと願っているのではないだろうか? そして既存の価値観の最たるもの=法律や道徳的常識は、史上例を見なかったレベルで疑われているのではないか?
これが、日本文化最大の論点の最前線に参加して、私の感じたことである。
※負け犬(アンダードッグ)効果
人は不利な状況にあるものに手を差し伸べたくなる生物。
特に日本人はほかの国と比べるとこの情に流される投票行為が顕著だという。
週刊ヤングジャンプ2013年29号より引用
トリコ 1 (ジャンプコミックス)/集英社
「トリコ」「ちはやふる」が人気を集めた理由は同情に由来する応援などではなく、作品それ自体の質の高さだと思う。少なくとも、同情によるものだと断定することは難しい。だが、指原莉乃の場合は明らかに事情が違う。前の総選挙では3位だったわけだしアイドルとしての能力に申し分はない。また、博多に移ってからの活躍も十分な評価に値する。
同情、なんて大それたものではなく、単に話題性、なのかもしれない。それでも災い転じて福となったことに変わりはない。
今回重要なのは、いったんペナルティを受けた者を、世の中が排除するのではなく、むしろ前以上に“推す”ことを容認する空気が、世の中に満ち満ちていることが証明されたということである。最近下獄したホリエモンも、犯罪人だという扱いは一切されていない。のりぴーだって復帰の瞬間をみんなが今か今かと待ち望んでいるではないか。
直感だけで言わせてもらえば、非正規雇用が当たり前になり、既存のあらゆる価値観が混乱し、政治も経済も不安定な現代日本では、誰もが自分をとりまく現状から解放されたい、道を踏み外してみたいと願っているのではないだろうか? そして既存の価値観の最たるもの=法律や道徳的常識は、史上例を見なかったレベルで疑われているのではないか?
これが、日本文化最大の論点の最前線に参加して、私の感じたことである。
※負け犬(アンダードッグ)効果
人は不利な状況にあるものに手を差し伸べたくなる生物。
特に日本人はほかの国と比べるとこの情に流される投票行為が顕著だという。
週刊ヤングジャンプ2013年29号より引用
トリコ 1 (ジャンプコミックス)/集英社