愛と幻想のファシズム 戦後が出した一つの回答 | 圭一ブログ

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圭一のブログです。1984年宮崎県生まれ

愛と幻想のファシズム(上) (講談社文庫)/村上 龍


国や社会のありかた、それと同時に、個人がどうやって生きていくべきか
という壮大すぎるテーマを、
旧来の純文学的なやり方だったらいくらでもやりようはあっただろうに、
経済とか世界政治の世界に真正面からぶつかって
とにかく凄いことになっている作品。

個人的に、一番好きな小説。いつかこんな小説が書きたい。

ちなみに主人公二人の名前は鈴原冬二と相田剣介で、
「新世紀エヴァンゲリオン」のあの二人の元ネタ。

これにヒロインを加えた三人は、
コインロッカー・ベイビーズのキク、ハシ、アネモネの生まれ変わりで
雰囲気は大分違うけれど、
村上龍特有の空気というか世界観は健在。
どうしてあんな気持ち悪い、グロい世界を淡々と書けるかなあ。

あの三人が活躍していた時代と場所は、戦後間もないころの雰囲気を引きずっていたけど
トウジもゼロ(剣介)も、戦後を引きずってはいるんだけど、
スノッブだったり中流だったりして、80年代的なんだよね。
テーマを反復させるのではなくちゃんと前に進めているというか。

限りなく透明に近いブルーからのCLBといい、
CLBからの愛と幻想のファシズムといい、
あらゆる表現者がぶち当る「自分の再生産」という壁に対し
もはや乗り越えるどころの話じゃないこの進化。

村上龍が扱ってるテーマは、個人と社会の関わり方、
そこで持つべ危機感に敏感であること、って感じなので
作者が身を持って実践してくれたと言えるのでしょうか。

希代のファシスト・鈴原トウジ率いる狩猟社の
暴れっぷりがなんとも痛快です。
凶暴さも半端ないし、頭もいいです。
そしてじわりじわりと敵を追い詰めていく。
ラストに向かってみんな壊れていく様が読んでて
めちゃめちゃおかしなテンションになります。

大体、「愛」と「幻想」と「ファシズム」を
並べるなんて、もうそれだけでしびれます。

※2011/4/27配信「文学セルフライナーノーツ」第二夜でも紹介しました。