皆様こんにちは。


魔法陣グルグルのコミックスは数々の言語に翻訳、輸出されている事は有名ですね。

この度台湾のCopyRightさんとグッズ交換をさせて頂きました。その時にご厚意で、台湾版の魔法陣グルグル「魔法陣天使」のコミックスを、なんとありがたい事にプレゼントして頂きました。




おおお!可愛い!!

テンション上がるー!!


ところで、往年のグルグルファンの方の中には「魔法陣天使は中国版では?」と思う方もおられると思います。かつてあった、衛藤先生の公認ファンクラブの会報「ヒロヒロ」の特集記事で「中国版」と紹介されているからです。自分もCopyRightさんに教えて貰うまではそう思っていました。当時ファンクラブ自体が先生のアシスタントさんが忙しい業務と兼任で作業してくださっていた事や、会費は印刷代と送料でほぼ消えていたという事実、またインターネットの普及状況など考えると、会報が存在した事だけでもありがたい状況なのでそれ以上は求めないのですが、日本のファンの知らない台湾と香港のグルグルの謎では?と思う部分が次々に分かったのでCopyRightさんの全面協力にて検証させて頂きました!


白南風は台湾や香港で日本漫画が人気という事実は知っていましたが、その背景については良く分かっていませんでした。まずはそこを調べたのでその辺りから始めてみたいと思います。概要はこんな感じです。


時代は1965年以前までさかのぼります。順調に発展していた台湾漫画でしたが転機が訪れます。1966年に「漫画審査制」という法律が施行され、これが結果的に台湾漫画の発展の障害になりました。台湾漫画が市場から消え、漫画需要を補う形で法律を掻い潜った日本の海賊版の漫画が出回ります。1975年に台湾の漫画衰退を防ぐために動きがありました。國立編譯館(台湾教育部に属していた学術・文化の書籍の編集・翻訳を行う行政部門)により、台湾の漫画が衰退しており、また当時の日本の(海賊版)漫画が飽和状態にあることが確認され、政策が見直されます。各出版社では台湾漫画の新人発掘をするようになります。共に日本漫画の審査が開放されます。それによって日本漫画(当時はまだ海賊版)は更に市場を拡大します。1992年に新しい著作権法が制定され、日本の出版業者との正式な契約が義務づけられ、公認の漫画雑誌が創刊されたり、ライセンスを取得したコミックスが次々に発売されます。


つまり、台湾漫画が供給不足になった時、日本漫画が次々に翻訳され売られていた、更に新しい著作権法が出来た後も変わらず日本漫画は人気だった。日本漫画は日本人が思っているよりも台湾人にとって密接な関係であり、また認知されているという訳です。また香港の日本漫画人気も、元を辿れば台湾のこの流れから始まっているとの事です。

(※この歴史の部分は白南風が台湾と日本漫画について書かれた論文やコラムなどを総括したものです。諸説あるものなどある可能性がありますが、ご理解頂けましたら幸いです)


話をグルグルに戻します。

グルグルが中華圏に入ってきたはじめは、台湾のガンガンである「GANGAN噹噹月刊」での連載でした。こちらもまた、先程お話した1992年の新しい著作権法の制定の影響によって創刊された雑誌の一つになります。連載開始は1994年3月発売の4号の頃と思われます。つまり、日本のアニメ化より前なんですね(ちなみに初代アニメ放送時期は日本1994.10〜/香港1996.7〜(翡翠台JADE)/台湾1997.4〜(TTV)になります)。その後発売された1巻の初版は1995年2月となっています。台湾ではしばらくして雑誌名が「BINGO 賓果少年」に変わります。こちらは隔周刊になります。

香港では当初の連載されていた雑誌、時期は不明ですが、6巻に入っていたチラシによると、少なくともこの時期は「BINGO 魔法冒險樂園」で連載があったようです。(どなたか詳細わかる方、教えてください!)1巻の初版は1996年6月になっています。


香港「咕嚕咕嚕魔法陣 」に挟まっていたチラシです。




こちら左側が自分が持っている香港版の「咕嚕咕嚕魔法陣 」、右側が今回頂いた台湾版の「魔法陣天使」です。


特に裏側、凄く柄が似ているのが分かります。

それもそのはず、作っている会社が「大然文化」という会社で、台湾版は台湾の本社、香港版は大然文化の子会社(香港)が作っています。



こちら「魔法陣天使」

「台北縣」は現在の台湾の新北市になります。


こちら「咕嚕咕嚕魔法陣 」

「大然文化事業(香港)」とあります。


大然文化もまた、先程お話した1992年の新しい著作権法が施行された後に設立された、同業の「東立」と並ぶ、台湾の出版社のトップだった企業です。


ここで台湾と香港の言葉の違いについてのお話をします。まずは文字ですが、中国語には2種類あります。「繁体字(Traditional Chinese)」と「簡体字(Simplified Chinese)」です。

台湾や香港では「繁体字」を使います。中華民國古来の文字、日本の旧字体に近い文字で、日本語の「楽」は「樂」になります。

中国は「簡体字」を使います。簡略化された文字で、例えば日本語の「楽」は「乐」になります。


こちら台湾「魔法陣天使」


こちら香港「咕嚕咕嚕魔法陣 」


次に会話する言語ですが、台湾は「國語」といいます。中国公用語の「普通語」と発音に違いがあるものの、ほぼ同じです。香港は「広東語」になります。ここでグルグルに関わってくるのは、コミックスにて「魔法陣天使」には台湾語の語呂だったり、「咕嚕咕嚕魔法陣 」には香港の広東語用語だったりが使われています。それは日本語を翻訳する段階で、どうにも表現の難しい言葉を現地の人にわかりやすく伝えるために「語呂が近い」「ニュアンスが近い」など、言葉を選んだ当時の翻訳さんの努力の跡とも取れます。その点から見ても、それぞれ「台湾版」と「香港版」だった、また工場と流通の国が違う事もあるかもという可能性も一時は考えましたがそうではなく、製造から流通までそれぞれ「台湾産台湾向け」「香港産香港向け」だったという事が断定できると思います。


ちなみに気になってくるのがキャラクターの名前がどうなっているかという問題です。

「ニケ&ククリ」を例に一覧にするとこうです。


台湾コミックス「尼克&柯柯麗」

香港コミックス「仁傑&歌莉」

青文コミックス「尼克&柯柯麗」

台湾初代アニメ「仁傑&歌莉」

香港初代アニメ「仁傑&歌莉」

台湾ドキ伝「尼克&柯柯麗」

香港ドキ伝「仁傑&歌莉」

台湾2017アニメ「尼克&柯柯麗」

香港2017アニメ「仁傑&歌莉」


基本的に台湾では「尼克&柯柯麗」

香港では「仁傑&歌莉」

が正解になります。

但し例外で台湾の初代アニメのみ「仁傑&歌莉」になります。吹き替えは台湾の「國語」、字幕も基本的に台湾の「國語」でしたが、稀に字幕に「広東語」が出てくる事があったそうです。魔法陣グルグルの漫画が中華圏に翻訳、輸入されたのは台湾が先ですが、翻訳されたアニメが放映されたのは香港が先でした。なのでひょっとしたら香港から台湾に輸入したものがベースになっていて、その事が影響しているのかも?という事です。権利など何らかの関係があるのか、台湾版の初代アニメはDVD、VHS、VCDなどのソフト化がされていなく、ただでさえ検証作業が困難な事情があります。


ここで一覧に「青文コミックス」という言葉が出てきました。そちらについて説明致します。


実は「大然文化」は2003年に倒産しています。

それにより本社も子会社も出版がストップしてしまいます。台湾の「魔法陣天使」は既に16巻まで完結していましたが、香港の「咕嚕咕嚕魔法陣」は14巻まで発売されていました。よって香港版(大然文化)の「咕嚕咕嚕魔法陣」は14巻までしか存在しません。後に2006年に青文という台湾の出版社が権利を獲得し、「咕嚕咕嚕魔法陣」の名前で1〜16、既刊全てが発売されます。


こちら青文コミックス「咕嚕咕嚕魔法陣」の奥付けです。

「香港經銷商」の文字があります。これは卸売業者で、つまりは輸出していた事になります。つまり「台湾産台湾/香港/(恐らく)マカオ向け」の3国共用版と言えると思います。


こちらでは「尼克&柯柯麗」と台湾での2人の名前が採用されています。

また台湾版「魔法陣天使」で見られた台湾語の語呂で表現されていた擬音部分などは単純に文字の組み合わせで音を表現した風な内容に代わっています。より3国で読み易いように配慮されている事かと思います。



こちら青文コミックス「咕嚕咕嚕魔法陣」

6巻の実物(CopyRightさんの私物)です。

日本の単行本に近い雰囲気にリニューアルし、また「香港版」に比べてもロゴが大幅に違います。


因みに余談ですが近年ではこの様な表記になります。こちらは「咕嚕咕嚕魔法陣2」の奥付の下の部分になります。

英語にもありますが、台澎金馬は台湾、港澳地區は香港とマカオ。つまり3国の共用版になります。「台湾産台湾/香港/マカオ向け」コミックスという訳です。



以上になります。

いかがだったでしょうか?

日本のグルグルファンの知らなかった、これまでの基本情報が塗り変わったような中華圏のグルグル情報だったのではないかと思います。新情報の数々に驚き、また納得しながら進めた作業はとても刺激があり、楽しいものでした。

また、この件に関しましてグルグルグッズの交換だけに留まらず、こちらがなかなか理解できない言葉の違い、文化の違いを丁寧に解説しながら数々の資料や経験談を教えて下さった台湾のCopyRightさんには本当にお世話になりました。ありがとうございます!


このコラムについて、まだまだ検証したい事など不完全な部分があります。気をつけていますがひょっとしたら思い違いなどあるかもしれません。

何かご意見、ご感想ある方は是非白南風までご一報ください。


次回は「コラム②」という事で、長年曖昧だったあのお話を検証してみたいと思います。

「ニケの顔に181事件」その時台湾では?

というお話です。それではまた!