とある夫婦の晩酌トーク

【趣味が合わない問題】

 

 

 

『今度の休みバーベキュー行ってくる』

 

 

『へえ、会社の行事?』

 

 

『いや、仲間内だけ、お前も来る?』

 

 

『あー、いるよねー、何の接点もないコミュニティなのに自分の女を連れて来る男、そんなに自分の女を見せびらかしたいのかねぇ』

 

 

『いや、見せびらかすほどのものでは・・・』

 

 

『それで一通り見せびらかしたら自分は仲間内で盛り上がって彼女は放置

知らないコミュニティに一人ポツンと取り残された女の気持ちがわかるか?

よく知らん人とウェイウェイ打ち解けられるほどこっちはコミュニケーション能力が達者じゃないんだよ

手持ち無沙汰にならないように肉を焼き続けるしかないんだよ、酒を注ぎ続けるしかないんだよこっちは

そんな苦悩も知らずに何がバドミントンだ、何が手押し相撲だ

肉を食えよ、酒を飲めよ、おれの仕事を奪うんじゃねえよ

お前らはいつもそうだ

その仲間意識で仲間外れを作り出していることにも気付かずに悪意もなく人を孤立させる

せめてそこに悪意があれば戦うこともできるのに、悪意がなければ戦うこともできないんだよ、愛想笑いで孤独に抗うことしかできないんだよ

私が一体何をしたっていうの!?

正義ってなに!?愛ってなに!?

私の青春を返してよ!

 

 

『しまった、こんなところに地雷があるとは思わなかった』

 

 

『すまん、ちょっと過去と戦ってきた』

 

 

『お疲れ、お前ってほんとバーベキュー嫌いだよな』

 

 

『あんなもんちょっと贅沢なホームレスよ』

 

 

『ひでえ・・・』

 

 

『じゃあ逆に聞くけど、バーベキューの一体何が楽しいの?』

 

 

『うーん、バーベキューに限らずアウトドア全般なんだけど、自由なんだよね、圧倒的に自由なの

ほら、おれらって社会の歯車じゃん?社会に適応するために本来あるべき姿を社会に合わせて矯正しているわけだ

 

 

『ふむ』

 

 

『人が人であるために、人による文化の中で生きていく、それは仕方のないことなんだけどさ

人間だって森羅万象の一部じゃん?自然の一部じゃん?

土に根を下ろし、風と共に生きたいじゃん?

種と共に冬を越え、鳥と共に春を歌いたいじゃん?

どんなに恐ろしい武器を持っても、たくさんのかわいそうなロボットを操っても、土から離れては生きられないじゃん?』

 

 

『今日はラピュタか・・・』

 

 

『椅子に根を下ろし、会社と共に生きよう・・・

サービス残業で夜を越え、社員と共に社歌を歌おう・・・』

 

 

『気をつけて!社会に洗脳されてるわ!』

 

 

『とにかく社会という枠の中で生きてると窮屈なんだよ

自然と触れ合うことで本来の自由な自分を取り戻せる感じ

アウトドアの醍醐味ってそういうところだと思う』

 

 

『ふーむ、そういうもんかね』

 

 

『どや?少しは理解できたか?』

 

 

『いやまったく』

 

 

『お前の頭は親方のゲンコツより硬いかよ!』

 

 

『いや、理解が及ばないわけではないよ、ただ興味が持てないだけ』

 

 

『また難しいことを言い始めた』

 

 

『私たちって趣味が全く違うじゃん?』

 

 

『言われてみればそうだな・・・』

 

 

『私はインドア派、あなたはアウトドア派

私は洋楽メイン、あなたは邦楽メイン

私は邦画大好き、あなたは洋画大好き

私はサッカーとテニスが好き、あなたは野球と相撲が好き

私は文系、あなたは理系

私はネット民、あなたはテレビっ子

世間一般では趣味が合う方がいいと言われているのに、合う趣味ってほぼ皆無じゃん

それなのにここまで特に問題もなくやってこれたのはなぜ?

 

 

『うーん・・・オレがいい男だから?』

 

 

『(無視)趣味が同じってそこまで大事なことではない気がするんだよね』

 

 

『ほう、その心は?』

 

 

『例えば私がアウトドアにハマったとするじゃん?

そりゃ最初は同じ趣味で楽しいかもしれないけどさ、趣味って少なからず拘りがあるでしょ

その拘りが異なると争いの種になったりすると思うんだよね

@ャ@ーズのファンとか見ていてもさ、同じファンなのに根深い対立があったりする層が少なからずあるでしょ

ああいうのを見ていると趣味が同じであることは必ずしもいいことではない気がするんだよね

 

 

『あー、趣味が同じで価値観が違うのが最悪ってよく言うもんな』

 

 

『それに趣味まで同じだと一緒にいる時間も長くなるんだよね、休日もずっと一緒ってどうよ?』

 

 

『イヤだ!』

 

 

『そこまで全力で嫌がるかよ!

でもそうなんだよな、お互いに違う趣味を持っているからお互いの一人の時間ができるんだよ

それって結構大事なことだと思うんだよね』

 

 

『近付き過ぎず離れ過ぎず、ちょうどいい距離で長く永遠にってやつか

確かに趣味まで一緒だと窮屈かも

オレはお前と結婚したけど、オレはお前じゃないしお前はオレじゃない

忘れがちなことだけど、自分を失わないためには一人の時間は必須だもんな』

 

 

『そうそう、お互いの趣味なんて無関心くらいでちょうどいいんだよ』

 

 

『そうだな、お前が一時期ハマっていた某アニメなんてまったく興味持てねえもん』

 

 

『その記憶は海に捨ててええええええええええ!』

 

 

『じゃあ一件落着ってことで乾杯すっか?』

 

 

『おう!』

 

 

『せーの』

 

 

『かんぱーい』