とある夫婦の晩酌トーク

【どこからが浮気なのか問題】

 

 

『ねえ』

 

『うん?』

 

『浮気ってどこからが浮気だと思う?』

 

『なんだそれ、浮気でもしたんか?』

 

『するかよめんどくさい・・・仕事だよ』

 

『原稿?そりゃまた難問だな、答えなんてないんじゃね?』

 

『ない答えに手を突っ込むのが仕事なんだよ、ねえどう思う?』

 

『うむ、では教えてあげよう、よく聞けよ』

 

『おなしゃっす!』

 

『誰かが傷付いたら、それはもう浮気なんだよ』

 

『・・・・・・・・・・』

 

『ふふふ、どや?』

 

『それ私が言ったやつだよね』

 

『あれ?そうだっけ?』

 

『パクるなよ、無断転載アカウントかよ』

 

『でもそれでいいんじゃね?どうせ答えなんてないし、うまく煙に巻いた華麗に逃げるいい答えだと思うけどな』

 

『もうちょっと歯に衣着せろよ失敬な、でもその答えだと矛盾が生じるんだよね』

 

『ほほう、というと?』

 

『人によっては違う異性と話をするだけで嫉妬心が生じる人がいるんだよ、嫉妬心が生じるということは少なからず傷付いているわけで・・・』

 

『なるほど、誰かが傷付いたら浮気理論では違う異性と話をした程度で浮気になってしまうわけか』

 

『そうなんだよ、嫉妬心と浮気を直結してしまうのは些か乱暴かなと・・・』

 

『ふーむ、難しいこと考えてんだな、大変ですね』

 

『あ、今飽きただろ、唐突に飽きただろ、逃がさないからな!』

 

『えええええ、もっと楽しい話がいい』

 

『まぁまぁもうちょっと付き合えよ、真面目な話ができない関係は続かないって偉い人も言ってたぞ』

 

『それ言ったのお前じゃん・・・』

 

『はぁ・・・わからん・・・鬱だ・・・』

 

『じゃあ聞くけどさ、お前って「どこからが浮気か」なんて仕事以外で考えたことある?』

 

『仕事以外で?うーん、考えたこともない・・・』

 

『だろ?それが健全なんだよ、浮気の境界線なんてどうせグラデーションだろ?そんな外角低めギリギリを狙う必要もないくらいにいつもど真ん中で生きているんだ、浮気をしない人に浮気の境界線なんて必要ないんだよ』

 

『おお・・・なんかいいこと言ってる・・・』

 

『浮気の境界線が必要な女なんてゲスい女しかいないんだよ、他の男とイチャイチャしたり二人きりでメシ食いに言ったり「友達だから〜」という大義名分を振りかざして自分の行動に正当性が欲しいだけ、自分の怪しい行動を正当化して安心して好き放題遊び回りたいだけの女がそういうことを言うんだよくっそがあああああああああああああああああああああああああ!!』

 

『過去に何があったか知らんが落ち着いて!』

 

『ここで問題です』

 

『おおう?』

 

『例えばオレが記憶をなくすくらい酔っ払って、朝目覚めたら見知らぬ女が隣で寝ていたとします、しかも裸です、状況から見るにやってしまった可能性は高い、しかし記憶もないし確証もない、もちろんお前への気持ちも何も変わっていない、さて、あなたはどうしますか?』

 

『まず冷たい滝に打たれてもらいます』

 

『うむ・・・』

 

『そして全身を熱湯消毒してもらいます』

 

『う、うむ・・・』

 

『そして多額の金品を要求します』

 

『ひぃ・・・』

 

『その上で今後を考えます』

 

『スタートラインまでが茨の道!』

 

『当然よそのくらい、むしろ手ぬるいくらいだわ』

 

『若干オーバーキルな気もするがまぁいいだろう・・・それを踏まえて聞くが、その罰の根源はなんなのだ?』

 

『根源?そりゃムカつくからよ』

 

『グッド!』

 

『突然のダニエル・J・ダービー!』

 

『オレには記憶がない、浮気をした確証なんてどこにもないし気持ちも変わっていない、浮気というにはあまりにも弱い物証だ、だがお前はオレに罰を下した、それはなぜか?ムカついたからだ、浮気かどうかよりも自分の気持ちを優先したのだ』

 

『つまり浮気かどうかが大事ではなくムカつくかどうかが大事ってこと?』

 

『グッド!』

 

『好きだなジョジョ・・・』

 

『べつにそれが浮気じゃなくたってムカつくことなんて幾らでもあるじゃん、別れる理由だって浮気なんてひとつの理由であって全てじゃない、それが浮気かどうかは問題じゃないんだよ、それを許せるかどうかが全てなんだ』

 

『あー、なるほどな、浮気じゃなくてもそれが許せなきゃ終わりにしてもいいってことか、わざわざ浮気を立証する必要もないと』

 

『どや?』

 

『うん、凄い、いいと思う』

 

『ふふふ、今日から先生って呼んでもいいんだぜ?』

 

『じゃあ先生、一件落着したところで改めて乾杯しますか』

 

『うい!』

 

『せーの』

 

『かんぱーい』