雨戸がしめられて明り取りに一枚あけられ、その近くで母上は良く縫物をしてをられた。

俺達は所在なさに食物をねだつていたものだ。

そのうちきつと母上は何かこさへて下さつたものだ。

ああ幼き頃の思ひ出は実に遠いものになつてしまつている。

我等の為に苦労して来られるた母上にその報いもせず、老後の楽しみも見せず、散りゆくのは残念である。

俺と泰教の望みを達成してくれるのは正教である。

素直に元気で大きくなつてくれることをひたすら望む。

それから若い盛りの綾子にも大分苦労をかけました。

化粧もせず、着物もきず、ただ家の為に働いてくれるのを思ふと全く頭が下がります。

よい婿さんを見つけてやつて九だ。

サエ子ちゃんも素直によい子になる様お願ひします。

私も靖國神社からそれを祈つて居ります。

海軍大尉

町田 道教

神風特別号攻撃隊第五筑波隊

昭和二十年五月十一日

沖縄周辺にて戦死

九州帝国大学卒

長崎県生月町出身

二十五歳