拙い筆に一こと申上げます。

父上様 母上様

いよいよ出発の日が参りました。

日出る國の男児と生れ、この日にめぐりあへた喜びに如雄の心はいつぱいになつて居ります。

萬葉歌人の海行かば水漬く屍と詠じたその感激が、今如雄の胸には脈うつて居ります。

うつし世のおもひはすべて断ちきりて

大君のため 我がゆかんとす

しかしながらかへりみて吾が身を深く思ふ時、ニ十ニ才の今日まで御両親様御養育の御恩、真にたとへの如く、海よりも深く山よりも高いものと感じます。

如雄は本当に幸福でした。

唯々、この御鴻恩に何一つの御報いもせず、御膝元を離るることを心苦しく存じます。

然し父上も母上も、國家の為、征く如雄を喜んでお許し下さいますね。

幸はひしニ十ニ年をかへりみて

憶ひつきざり 父母がなさけ

海軍一等兵曹

木内 如雄

軍艦武蔵

昭和十九年十月ニ十四日

比島方面にて戦死

神奈川県出身

ニ十ニ歳