母上

長い間色々御厄介になりました。

此の度の件、お國の為に一生懸命働いたのですが、敗戦と云ふ大変動で戦犯人として刑を受ける事になりました。

然しお母さんの教へを守り、家の名を辱しめる事は決して致しませんでした事を嬉しく思つて居ります。

大らかな気持ちで喜んで國難に殉じて参ります。

唯、生前何等の御孝養を尽くすことなく、それ計りが心残りです。

どうかお母さん、何時もお元気で幸福にお過し下さいます様お祈りして居ります。

判決のあります前夜、お母さんにおぶつて頂いて川を渡つた夢を見ました。

私は随分仕合わせでした。

何もかも唯なつかしく、凡て夢の様です。

親思ふ心にまさる親心

今日のおとづれ如何にきくらん

お母さん、私は死んでは居りません。

何時も何時もお傍に居ります。

海軍二等機関兵曹

多田 美好

昭和二十一年六月二十八日

シンガポール、チャンギーにて殉難死

岐阜県出身

三十三歳
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