拝啓

内地は、櫻の候も、早や終つた頃でせう。

戦争中のこと故、花見どころではなかつたでせう。

小生このたび、また灼熱の赤道直下に暑さをおして御奉公致してをります。

今度は海の上ばかりですが、南國の生活も、また情緒的です。

朝夕はやはり涼しく、海の水は澄み渡り、夜ともなれば南十字星が、さんとして水平線の彼方に輝いています。

思ひに耽ると、故郷の山河が瞼に浮びます。

町の様子は如何に、わが父母は如何にと。

一年経てば町の様子も相当変わつたことでせう。

様子お知らせ下さい。

戦ひ、いつの日か平和にもどらん。

又、いつの日か命下らん。

お手紙を出さずに出ることもあります。

皆々様御壮健にお暮し下さい。

父上様、母上様

海軍飛行特務少尉

岸田 清次郎

昭和十七年五月八日

珊瑚海にて戦死

甲飛三期生

滋賀県出身

十九歳