欲張りな父
まりりん家の再生があらかた落ち着き
まりりんも普通のOLに戻りつつあった頃から
両親の趣味というか楽しみのひとつに加わったのが
「〇〇採り」
もともと木の実や山菜など、季節季節の自然の恵みをいただくのが大好きだった二人
畑の収穫はもちろん、自治体の園芸科が主催するイベントなどに毎年参加して、格安で収穫体験などを楽しんでいた
まりりんが結婚してからは、義母が持つ山のタケノコや梅、栗などを大量に採るのが恒例になった
ひとり暮らしの義母は、持て余してる山の恵みなので、採りに来てもらえると助かるとのことだった
日時が合えば、わたしも娘を連れて手伝いに行き、それはだんだん季節ごとの家族のイベントにもなっていた
去年までは
今年もタケノコの季節が来た
だけど春に入り、母の身体は日に日に動きづらくなっていて
さらに少し動いただけでも、どっと疲れてしまう
そんな母を今年は山には連れていけない
それでも父はタケノコを堀りに行くのをやめない
義母に頼まれたから、というのもあるけれど
今年も何度も山に入り、家族きょうだいで分けても食べきれないほどのタケノコを持ち帰る
母は、自分で採りに行けないどころか、下処理などもうまくできないので、積極的に採りたいと言っているのは父だけだ
どうしてそこまでしてタケノコを採りたいの?
急な斜面は、父の痛めている足腰にもだいぶ辛いはずなのに
なんていう欲張りなのか
さすがの母もあきれ顔になっている
そんな家族を尻目にせっせとタケノコの皮をはぎ、大鍋で茹で、真水につけて・・・を繰り返す父
ほんと、こんな時に何考えてるんだろ?
でも、父を見ていて、ぼんやりと分かったのだ
今までの日常が、イベントが、変わっていく
その恐怖を遠ざけているのだ
今まで通り、いつも通りにすることで、それはこれからもずっと続いていくのだと信じたいんだと思う
タケノコの皮を剝きながら平静を保とうとしているのだと
来年も、欲張りな父を諫めながら、手を真っ黒にしてフキの薄皮を剥く母とわたし
そうであったらいいなぁ
いつかは必ず変わってしまうのはわかっているけど、そう願わずにいられない
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2023/05/01
5月になりました
きょうだいでGW旅行を企画していたのは2月のこと
その時は母がこんなことになるなんて夢にも思わなかった
気持ち的なものもあるけれど、体力的に旅行はとても無理だということで
病気が判明してすぐにキャンセルをしてしまった
元気になったらまた行こうね、と話をしたけれど
母はもう全く心を動かされていないようで、今後行ける可能性は限りなく低い
故郷の景色、もう一度ジイバと一緒に、娘に見せてやりたかったな