世界一温かい、PACとそのお客さん

 

ここからは今回の演奏会についてのインタビューになりますけど、そもそも松永さんとの出会いは確か大森 花さんのPia Julienでのライブに一緒に出られているのを観に行かれてからって伺ってます。

そうですね。

ちゃんと会ってお話したのはそれが初めてだね。(大森)花ちゃんと会ったのも元々はオーケストラをバックで歌っていたのを聴いたのがきっかけで、いつか共演できたらと思ってたのが今年末のO-PaSで実現して共演することになったんです。その顔合わせを年末にしたんだけど、その時に(年始に)ライブをするってのと、それに(県西の同級生でもある)紗衣ちゃんも出るって聞いて、これは行かねばと。Pfの後藤 真里亜ちゃんも、実は前回の#1でソリストを務めた市川 未来ちゃんのソロ合わせの時の伴奏ピアニストだったという偶然もあったし、一方的ではあるんだけど、僕はPACに在籍している頃から(東さんを)知ってたから、久々に聴けるってのも正月早々おめでたいって思って(笑)。

そう、めっちゃ年始でしたね(笑)。1/4とかやったかな?

そのくらいだね。それは行かなきゃって思って聴きに行って、せっかくだからご挨拶をと声を掛けさせて頂いて。「ずっと昔からファンです」って(笑)。

ありがとうございます(照)。

そんな感じでお話をして、その1月末に日本センチュリー交響楽団とモーツァルトのCl協奏曲をシンフォニーホールで共演するって事で、これも行ったんです。その時は忙しかったのでお話できなかったんだけど、そういう繋がりが出来たところで…。

2月のdiversEnsemble 第1回演奏会が終わった後に…実はその時点で(今回の会場である)いたみホールは押さえてたんですけど、紆余曲折あってソリストは決まってなかったんです。で、松永さんに「共演したい方がいらっしゃったら仰ってください」って半ば泣きつく感じで言ったら、その候補者の中に東さんの名前があって。じゃあ最初に聞いてみようという事で声掛けをして頂いたんですけど、そのオファーを聞かれて、どう思われましたか?

え、めちゃくちゃ嬉しかったです。1月末のモーツァルトを聴いて、そう思って頂けたのもそうですし、オケのコンセプトというか、自分で演奏したい曲をやらせてもらえるという点にもすごく惹かれて。「やりたい曲めっちゃあるし、どの曲にしよう!」みたいな(笑)。本当にすごく嬉しかったですね。

昨日今日知り合ったばかりのオッサンに誘われてすみませんって僕は思いながら誘ったんだけど…(苦笑)。

いえいえ。

遠くから来てもらう事にもなりますからね。

そう。それが蓋開けてみたら、こっち(関西)の仕事の方が多いぞって(笑)。

そうなんです(笑)実際に最近は関西と関東で半々くらいですね。今シーズンはPACの仕事が多いので。

そうだね。でもまたこうしてPACに出られるってなかなかないよね。

そうですね。私は結果的にコアメンバー3年目をやらなかったので、今その3年目をさせてもらっているような気持ちですね。もちろんエキストラとして呼んで頂いているので、メンバーのみんなの状態が一番良くなるようにお手伝いすることが仕事です。その気持ちを土台に持ちながら、個人的にはやっぱり古巣だし、他のオケに行く時とは違う気持ちで…やはり自然と愛着が湧くオケです。自分も得るものがいっぱいあるし、PACだからこそ試せることもたくさんありますね。

それがまた今のPACのメンバーに良い影響を与えてるんじゃないかな。

そうだとすごく嬉しいですね。

だと思うよ。だって1度色々な事情を持って離れて、またこうやってエキストラという形で戻って来られて演奏できるというのはね。

そういう面でも、PACってすごく温かいですよね。今月に聴きに行ったんですが、演奏者もそうですけど、お客さんがとても優しいというか、そういう印象が非常に強かった。

常にウェルカムな雰囲気なんですよ。私も今年9月の定期公演が退団以来3年ぶりの出演だったのですが、出待ちしてくれるお客さんもいらっしゃって、「お帰りー!」みたいな。ちょうど佐渡監督の定期で、管楽器も1人ずつ立たせてくださったのですが、私は2ndだったのに大きめの拍手が来て「えー、そんなに目立ってないけど」って(笑)。

休符を数える方が大変だったよね。

全員:

だけど本当に嬉しかった。芸文のお客さんは世界一温かいと思っています。

 

ー インタビューの様子(左:謝花/中央:東さん/右:松永さん 撮影:間嶋さん)

 

 

  ニールセンは今しかできない、そしてこのオケだからこそできると思った

 

そういう形でオファーをさせて頂いて、(ゲストコンミスの)久津那さんも交えて4人で1度顔合わせをした際に「曲どうします?」って話になった時にはニールセンかウェーバーって仰っていたと思いますけど、その2曲のどちらかというのは、既に決めてらっしゃったんですか?

(その2曲で)悩んでいましたね。モーツァルトは自分の中では人生のうちで1度は演奏したい曲の断トツ1位だったのですが、その夢が今年実現したので、「出来ればオケと共演できるとめちゃくちゃ嬉しいなぁ」という2位の曲がいっぱいあって、その中の2曲がニールセンとウェーバーのf-moll(第一番)でした。顔合わせの前まではウェーバーに気持ちが傾いていました。ニールセンは自分も合わせられるか不安やったし、リハーサルの時間も限られている中で吹き切れる自信もあまりなかったので。けど、顔合わせの時に3人が「東さんが今、本当にやりたい曲を選んでください」と最後に言ってくれて、その時にニールセンは今しかできない曲じゃないかと思って。ウェーバーはまたチャンスがあるかもしれない気がしたのと、ニールセンの方が「立場に関係なく、ソリストとオーケストラ奏者が一緒に(音楽を)作り上げる」というオケのコンセプトにも合っていて、だからこそ音楽を共に深めてく演奏を創っていける。その点でもやりたいと思ったのはニールセンでしたね。

ニールセンの聴きどころは?

初めてこの作品の楽譜を見た時や演奏を聴いた時は、クラリネットってこんな技術的な事ができる楽器なんやって印象を持たれると思うんですけど、そうじゃないニールセンの世界観…私もまだ漠然としてはいるんですけど、松永さんとお話していて、おとぎ話というか神話みたいな世界やなと思ったんです。本のページを開くたびに情景が変わって、たまに悪魔みたいなキャラクターが出たかと思えば、森の中や湖のほとりに霧が立ち込めている風景が広がったり、またページをめくったらおどろおどろしい空気が漂っていたり…情景がコロコロ変わる曲で、その度に、若干色合いの違う情景が広がっているような感じですね。それは調性だったり、使っている楽器の色使いだったりするのですが、そういうことを感じてもらえると良いかなあと思います。もちろん技術的にも非常に難しいところはあるのですが、そこを難しく聴こえないように仕上げたいですね。そういった情景を作るための技術だと思うので、まずは音楽が一番に入ってくるような演奏をしたいです。

それはオーケストラにも同じ事で…(苦笑)。難しいよねー…

この2人(謝花、間嶋)は乗らないから「へー、頑張れー」って思ってるよ。

全員:

(参加できる奏者が)羨ましいと思う反面、スコアを見ながら見学してると「(Obが)編成になくて良かった」とも少し思いました(笑)。それにしてもエグい曲だなと。

確かに難しい事もしてるし凄い曲だよね。だけどそういう風に…僕らみたいに中途半端に音楽をやっていると「うわ、これ練習するの難しい」とか「何だこの音の並び」ってなっちゃうと思うんだけど、何も知らずに聴くとスッと入ってくるような綺麗な曲だと思うんだよね。紗衣ちゃんもそういう意味合いで言ったと思うんだけど、オーケストラもソロと一緒に同じ色合いなのか、全く違う色合いで対峙するのか、そういうところが楽しみだと思う。

そうですね。

使っている楽器が少ないのに様々な色が見えるよね。

そうなんです。使っている楽器が少ないって事は、使える絵の具の色が限られているって事なのですが、そこで色々な色を混ぜて新しい色を作っていくべきやと思うし、そこがすごく楽しみですね。

楽しみだし面白いよね。色々な色というのが、使っている楽器だったり、旋律によって違うスケールだったり、楽器間で違うリズムを同時に演奏したりで表現されてる感じで。ニールセンの曲の描き方として「困ったらフーガ」ってのがあるんだけど(笑)、1つの旋律を別の旋律が追い掛けたり、はたまた休んだりっていう描き方で、単体じゃなくて必ず複数の要素が絡み合っていて、対峙したり一緒に演奏したりという音楽を生涯に渡って描いてきた人なのかなと思う。

何事にも興味があって、時代背景を音楽に投影したり、時には必要以上に厳しい音楽も描いたけど、そういうのを一通りやって、しがらみから放たれた晩年に行き着いた境地というか、凄く素直な気持ちが現れた曲なのかな。元々落ち着いて1つの事をずっとやるタイプではなかったのかも知れない。

移り気な人だったんですかね。

気が多かったんじゃないかな?気が多くて、何事にもすぐ熱を帯びるようなイメージ。

けど冷めるのも早い、みたいな(笑)。

だよね(笑)。

その最晩年の作品に、この大作を描いたと。

そうだね。オケ付きで描いているのは最後に近かったはず。

作曲家って、晩年にClの魅力に気付きがちなんですよね…

全員:

今まで放ったらかしてごめん!みたいなね(笑)。

そうそう。モーツァルト、ブラームス、サン=サーンスもプーランクもみんなそうですよ(笑)。Clの魅力に気付いたらそろそろヤバいというか…

描きたいと思った時は危ない、悪魔の楽器みたいな感じだね(笑)。

 

 

  アーティストの哲学

 

今回、演奏会にご出演頂いて、もちろんこれは通過点でしかないと思いますけど、この先、どういう演奏家やアーティストになりたいというのはありますか?

今の一番大きな目標は、「オーケストラの仲間として迎えてもらう事」ですね。「オーケストラに入る事」じゃなくて、「(オケの)仲間に入れてもらう」って表現を使いたいんですけど…もちろん少人数のアンサンブルも好きなのですが、やはりオーケストラの中のClが一番大好きで、それを自分の生涯の仕事にしていきたいし、自分の人生で一番長い時間をオーケストラで過ごしたいと、この1年は特にそう思いますね。ただオーケストラに入るんじゃなくて、仲間と一緒に音楽ができる環境に迎えてもらえるように…そのためにも、演奏技術だけではなくて、人間的にも成長していきたい。日々学びですね。1日24時間、1秒たりとも無駄な時間は無くて、自分の身になっていると思っていて、その一瞬一瞬を大事にしていける人になりたいと思います。

 

東さんにとって、クラリネットとは何ですか?

うーん…自分の内側にある気持ちや考えている事を外に発信したい時に、色を加えてくれるものなのかな。言葉にするとそれだけで通じるけれど、音楽に乗せて表現したい時に、クラリネットが私の発信したい事を一番素直に色づけして出してくれると思います。それは多分クラリネットじゃないと出せない色ですね。

 

今回の演奏会の参加者や聴きに来られる方へのメッセージをお願いします。

私は今回ソリストとして呼んで頂いていますが、同じ舞台に立つ仲間や聴きに来てくださるお客さんと一緒に、1/20の14時からの数時間を過ごせるように…その時間って、各々一生に1回しかないじゃないですか。コンサートの時はいつも意識していることなのですが、一生に1回しかない奇跡のような時間と空間を、誰もがフラットな状態でー自分がソリストだからとか、楽器弾いてるとか全く関係なくー会場にいる全員で共有できればとても素敵だと思います。

 

本日は長い時間、ありがとうございました。

ありがとうございましたー。

 

ー サイン入りのフライヤーを持って頂きました!是非1/20、いたみホールにお越しください。

 

 

2018年11月23日、LUCUA 1100 9F蔦屋書店4th Loungeにてインタビュー。

 

 

聞き手/撮影:間嶋 美波

(Minami, Majima | diversEnsemble 管楽器セクションリーダー / Flute)

聞き手/文字起こし・編集:謝花 旭

(Akira, Syahana | diversEnsemble 主宰・プロデューサー/ Oboe)