Story. 4 3000人が集った東京駅
「さようなら~!」
3月13日午後6時。
東京駅の10番ホームは立っているスペースもないほど
大勢の人で混雑していた。
人をかき分けながら、「6号車エレベーター付近」と言われた待ち合わせ場所まで進む。
寝台特急「富士・はやぶさ」号のラストラン。
東京駅から九州方面に向かうブルートレインは、今日で見納めになるとだけあって
カメラを片手に大勢の鉄道ファンが見送りに来ていた。
DJは奇跡的にこの最終列車の乗車チケットを入手した友達を見送りに来たのだが
あまりの混雑で今どの付近を歩いているのか全く見当もつかない…。
幾重ものフラッシュは休む間もなく光り続けている。
芸能人になった気分だ・・・
30機、いや50機ほどのカメラに、DJは写り込んだ事だろう。
背伸びをして号車確認。
小さい文字で「4号車」の表示。
あと2両分・・・
ホームはとてもじゃないけど歩けなかったので、
ちょいと社内にお邪魔して中を歩かせてもらった…!
(本当はいけません!!!)
東京と九州とを半世紀走り続けてきた列車・・・
車内に残されている傷や、色褪せた洗面所から歴史を感じる。
・阪神大震災が起こった神戸を駆け抜けてきた。
・東京オリンピックに湧き上がる人々を西日本から運んできた
・大阪万博、「こんにちは~」音頭の中軽快に汽笛を鳴らしてきた
日本で最も長い片道区間を旅人とともに走り続けてきた列車は
今日でその役目を終える。
「おつかれさま」しずかに、洗面所、トイレ、2段ベッド寝台、声をかけてきた。
ホームの先頭では、テレビの生中継をやっているようで
「最後のブルートレイン」 なり 「大勢の鉄道ファンが・・・」なり
決められた言葉を発車時刻まで繰り返しカメラに向かって語り続けているようだ。
発車時刻になっても出発しない汽車を気にしながら、
「最後の点検を行っているようです」
という言葉・・・本当は、喋る言葉がないんでしょう…(笑)
突っ込みたくなりながらワンセグ放送を携帯片手に見てしまう。
ようやくつきました6号車。
仲の良い鉄道ファンの友達に、DJは一つの機械を手渡した。
それは列車に乗れないDJの分身、ICレコーダーだ。
「車内の音、なんでもいいから録ってきてほしいんだ」
話し声や、線路の音、各駅を通過するごとに聞こえる歓声や、車内アナウンス
なんでも良かった。
東京から九州に向かうブルートレイン最後の日、
東海道本線から山陽本線を駆け抜け九州入りする長い旅路の記録を
映像ではなく、音でDJは手元に残しておきたいと思った。
彼は快く受け取り、列車の奥へと消えていった。
午後6時3分。
12両の客車を引っ張る先頭の機関車は、大きな大きな警笛を東京駅中に響かせた。
もう戻ることはない東京駅に、何かメッセージを刻み込むかのように…。
ゆっくりとゆっくりと、列車は動きだす。
ホームからは何重もの人垣が一斉に手を振る。
列車の中からも、窓に張り付いてみんな手を振り返す。
「気をつけて!」
「いってらっしゃい!」
その声は、いつしか・・・
「ありがとう!ブルートレイン」
「おつかれさま!」
機関車にかけられる言葉に変わっていた。
時速20キロほどだろうか、
ゆっくりゆっくり・・・客車の一両一両がホームから離れ、夜の闇に吸い込まれていく。
「大分」行き
「熊本」行き
この行き先表示はもう東京駅で見ることはないだろう。
目に焼き付けようとDJもしっかりと最後の旅立ちを見送った。
寝台特急「富士・はやぶさ」号 ラストラン。
入線してから40分、3000人に見送られて最終列車は九州に向かって出発した。
一方で車内では一体どんなドラマがこれから展開されるのだろうか。
片道15時間ほどの夜行特急の旅・・・
今夜は乗客たちにとって長い長い夜になるだろう・・・。
DJ RAVI!

