主な収録筐体
BMS, Cytus
主人公
私(研究者)
作者評価
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作者コメント
前回載せた物と世界観は同じですが、今回のは主人公の男性が亡くならない話となります。
AXION
~貴女の為に~
(0鳩サブレ10101DIT0101)
1人の研究者が体内のDNAをプログラム上で書き換えることで難病を治療させようという技術を生み出した。
これは体内の情報を二進数でスキャンし0なら異常、1なら正常として判断する。そして情報の中で0となる部分をプログラム上で1に書き換える。するとその情報が体内でも反映されると言う。
プログラムで人工的にDNAを構築し体内の病を細胞レベルで治す技術。いや、正確には治すと言うより入れ替えると言った所か。技術的にその病気を無かった事にするのだ。これが世に出回れば医療技術は急激な進化を遂げる事となる。
だが、計算上では体内で莫大な強い力が発生し、人間としての姿を保てなくなる。そもそも、DNAを書き換える事が生物倫理に違反するのではないか。そう大多数の研究者は指摘した。
だが、彼は十分にその安全性を示しマウスによる実験において何も問題の無かったことをレポートにまとめて発表した。1人の研究者がこう質問する。
「そもそも、貴方はなぜこのような研究を行おうと考えたのでしょうか?」
すると彼は、少し表情を曇らせながらこう答えた。
「…どうしても、難病を改善させたい人が私にいるからです。とても大事な人が…。」
……
研究発表が終わった後。彼はとある病院の個室へと足を運ぶ。
窓のないその部屋には、彼と同い年ほどの髪の長い女性がベッドの上で鉛筆を使って何やら紙に書いていた。白く細い腕に繋げられた幾多のケーブルが複雑な機械へと繋がっている。辺りには、一定のリズムで刻まれる電子音以外には何も聞こえない。
「やあ、今日は私の用事で遅くなってしまってすまないな。今日は何が見えるんだい?」
彼は、その女性に向かって優しく話しかける。
すると彼女はおもむろに彼の方を向き、小さな声で逆に質問をした。
「…貴女は、どの《私》?看護師さんの《私》?それともお母さんの《私》…?」
「ああ、私は君の同級生である。日曜日に毎回ここへ来る、本来は白衣を着た君と同い年の《私》だ。」
「…ああ、今日は日曜日だったわね。来るのが遅かったから、どの《私》か分からなくなっちゃった…。えっと、今はこんなのが見えるアルファベットに似ているけれど何か違う雰囲気の不思議な文字…ルーン文字かしら。」
彼女はそう言って紙に書いていたものを見せる。それは直線で描かれた謎の記号であった。確かにこれはルーン文字のようだ。傍から見れば、これは奇妙な会話に見えるかもしれない。だが、彼と彼女の間ではこんなやり取りをするのが普通なのだ。
虹彩投影認識不全症候群――通称《セイムミラー・シンドローム》。
明確な原因は不明であるが、主な症状として「自分の視界に映る他人が、全て自分の姿に見えてしまう」という難病である。
彼女は数年前突然この病気を発症した。すぐに専門の病院に行った所、「治療法が未だに見つかっておらず、自然に回復するケースも少ない。入院して様子を見るしかない」と診断された。
つまり彼女の目には、彼ではなく彼女自身が映っている。まるで合わせ鏡に映したように。
彼女の場合、それに加えてかなりの頻度で幻覚も見えてしまうらしい。
その症状を彼女は彼にこう教えてくれた。
「視界の隅の方で色んな小さいものが浮いてるの。それは日によって変わるわ。今日はルーン文字だったけれど黒い竜だったり、虹の上で星が輝いていたりするのよ。」と。
「もうすぐ、君の病は治る。私がその方法を見つけたんだ。これで私はずっと君の傍にいる事が出来る…。」
彼は、彼女にそう伝える。彼女はその言葉を聞いて曖昧な笑顔を浮かべた。彼女のその反応を見て、期待通りの反応を得られなかった彼は困惑する。
「どうしてだい?君が何度も苦しめられたその病気がやっと治るんだ。嬉しいことではないか。」
「…うん、確かに嬉しいわ。でも、少し怖いの。《私じゃない人》が視界に現れるのが。自分が映っているからこそ、私は自分自身に問いかけるような形で接することができる。私の笑顔を見ながら、私の身振りを見ながら、私の手を握りながら。でも…もう私に触れる人が私じゃなくなる、その感覚が怖いの。」
彼女が胸中を打ち明ける度に、その顔から笑顔は消えていく。すると彼は、彼女のその白い手に指を絡めて、強い口調で言った。
「大丈夫。恐れることは無い。人間は不変を恐れる生物なのだ。私はそれをよく理解している。私は、君が少しでも辛い思いをしないように最大限の配慮をするつもりだ。」
それから、彼は少し間をおいて次の言葉を話し始める。
「…そして、その目が元に戻ったら…。どうか、受け取って欲しいんだ。君自身の姿ではない私自身からの愛を…。」
彼女は、その願いを快く受け入れた。そして、彼は眠る時間も削りながらの手術の末に、彼女の手術を成功させた。
目を開けた瞬間、久しぶりに見る自分ではない人間の姿が映りこみ、すぐに滲んで見えなくなった。初めて見る彼の姿。なんと優しい表情を持つ男性なのだろう。
彼はその濡れた目をそっと優しく拭ってあげた。
研究結果の通り、実際に特に異常は起こらず、やがて彼女は一般人と変わらない生活を送り始めることまでできるようになる。それは彼女にとっても彼にとっても何よりの幸せであった。
その後二人は結婚し、まるで夢のようなな新婚生活を二人で過ごし、そして、その愛はやがて1人の子を授けてくれた。
だけども、幸せを上書きする形で不幸は忘れかけていた頃に訪れる。
ある日彼女は、突然倒れ込んでしまった。彼女は一言も苦しまなかった。苦しむ間もなくその意識が途切れたのである。
まるで再びあの不思議な世界へ戻るのを望むかのように。
いつも彼女の傍にいた研究者は急遽彼女を病院へ搬送し、検査をする。
すると、体内の器官に正常に機能している物が一つも無かったのだ。だが、それにもかかわらず彼女の体温はそこに存在していた。
彼は前にそうしたようにその異常をプログラムで修正しようとした。そのソースコードを開いた時、彼はその画面を食い入るように見つめた。
「これは…どういうことだ…。」
なんと、そこに記された二進数の情報は0000000の羅列になっているではないか。
そう。これは殆どの体内の機関が危険な状態を意味していた。
ここまで来ると身体の負担がひどくなる為プログラム上で変更するのが困難となる。無理に変更すればかなりの負担がかかり最悪の場合死に至るだろう。
今までのやり方ではどうする事も出来ない。
「せっかく愛する彼女との幸せを築けたというのに…!」
彼の身体をどうしようもない憤りがぐるぐると循環する。
だけど、その感情に身を任せて思考を放棄してしまっては何も生まれないことも彼は知っていた。
昏睡状態の中、それでも彼女は生きる意志をまだ持っている。彼女だけではない、彼女の中に宿る小さな命だってそうであろう。私は新たな2進数変換プログラムを組むことを試みる。しかしプログラムを動かす為の何かの材料が足りない。足りないのは分かっているが、しかしこれ以上に何が必要だ?
私は頭を抱え込んだ。
「畜生…どうすれば彼女を救えるんだ!何が足りないんだ!」
「……」
「彼女は未だ昏睡状態。でも身体は生きる意志を持っている!生きたいと願っている!でも救う為の何か材料が足りない!」
「……」
「それは何なんだ!?何を考えようとも答えが見つからない!」
「……」
「彼女は私しか救えないんだ!どうすればいいんだ…」
「……」
「…私しか救えない?この気持ち…この最後のプログラム材料はまさか私自身の想いと言うことなのか!?」
「……」
「意識、想い、そして愛。これらは科学的に証明されない。ならば…!」
私は最後のプラグを自らの胸に突き刺した。胸からは血が流れ始める。
…だが、プラグはそこまで長くはなかったため、自分の心臓が傷付くまでには至らなかった。得るべきデータはプラグを通って着実に収集されていく。
そして最後の材料、私の想いが込められたプログラムはついに完成した。反映させてみると、彼女の体内で別の物体が生まれ始めた。
この新たな物体を私は「AXION」と名付けた。
そう。このAXIONには私の彼女と子どもを救いたいと言う想いが引き継がれていた。
AXIONは彼女の体内で、反応を起こし始める。すると彼女の体内情報は0101010と信号が入り乱れ始めた。どうやら、不安定ながらも彼女の身体は正常な数値へと戻りつつある。
「やった…私の想いが彼女を、未来を守ったのだ。」
私は、まだ目覚めることのない彼女の髪をそっと撫でる。画面内では表示されている0の数は数えるほどになってきた。もう彼女の身体は大丈夫だろう。
彼女の生きる意志と私の救いたいという想い、この二つが交わり合いAXIONは新たなDNA螺旋構造へと結合され彼女の体内を構成する物質へと変化を遂げる。
この新物質の発見は世界的なニュースとなり、やがて私はその偉業を表彰されることになった。
その舞台では、小さい娘と妻も一緒にスポットライトを浴びている。久しぶりに見せるその笑顔は人々に希望を与えた。
……
DNAではなくAXIONによって身体が構成された彼女。果たしてそれは人間といえるのであろうか?もはや生物との分類もできないのであろうか?
だが、私はそれでもいい。
「人間ではない人間、生物の分類、そんな事どうだって構わない。彼女が今こうして生きているだけで…そして、その彼女によってこの世に生まれてきてくれたこの子がいるだけで…私は幸せなのだから。」
彼は妻の胸の中で眠る小さな我が子を見つめ、自分の胸に出来た小さな勲章をなぞりながらそう思うのであった。
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どうも、「二度あることは三度あった」鳩サブレでございます。
今回は…率直にいえばとても難しかったです。
まず思ったのが「AXIONって何??」という点からでしたので、色々ググってみました。いやー、難しい事だらけで読み解くの大変でした。人類の思考ってすごいです。
『セイムミラー・シンドローム』は私が考えた架空の病気でございます。
執筆中に同じ一人称の「私」が出てきてしまったので、これをなんかうまく使いたいなーというノリで出来たものです。
突然周りの人が全部自分に見えるとか考えれば怖いですね…w ちなみに、文中の『黒い竜』や『虹の上の星』はsakuzyoさんのあの曲をイメージしてますー。
彼が生き続けることで得る幸せ、彼が死ぬことで得る幸せ…どちらが素晴らしい幸せなのでしょうか。そんな事を考えて頂けたら嬉しいですね。
度重なる合作ですが、今回もありがとうございましたー!(鳩サブレ様)
