4502 武田薬品工業
基礎情報
・言わずと知れた日本トップの製薬会社です。2019年に英国シャイアーを買収したことで、世界でもトップ10に入る売上規模の会社となりました。
・投資判断においては、この英国シャイアーの買収とその後の見通しをどう見るのかが非常に重要になってきます。
業績
・売上高は、2018/3期1.77兆円、2019/3期2.09兆円、2020/3期は3.29兆円と、急増しています。英国シャイアーの買収は2019年1月ですので、2019/3期は4Qのみ、2020/3期は通年で寄与した形になります。
・一方で、営業利益については、2018/3期2417億円、2019/3期1276億円、2020/3期は1004億円と減少傾向です。これは、シャイアーの買収費用や、買収後の統合費用が発生したことによります。
・2021/3期は、3Qまでで売上2.42兆円(前年同月2.51兆円)、営業利益3587億円(同1625億円)と減収増益となっています。統合手続きが完了し、巡航速度に戻って来ている印象です。前年同期比やや減収となっているのは、コロナの影響ではなく、一部事業の売却(後述)などによるものと考えられます。
財政状態
・英国シャイアーの買収金額は総額6.2兆円でした。シャイアーの買収時の純資産が3.1兆円で、さらに3.1兆円を上乗せ(のれん)して買収しました。資金については、およそ半分を増資で、残り半分を金融機関からの借入れにより賄ったようです。
・売上高2兆円弱の会社が6兆円のM&Aを行ったということもあり、稀にみる大型買収となりました。この買収の結果、有利子負債も6兆円にまで増えました。
・今後、有利子負債6兆円(直近では残高5.3兆円)の返済のためにしっかり利益を計上していかなければならず、利益だけで足りなければ資金繰りが行き詰まる可能性もありますので、利益見通しをしっかり見定める必要があります。
株価
・2021/3期の予想PERは31.8倍、PBRは1.24倍となっています。PERはやや割高にも見えますが、PBRは他の国内製薬企業と比較すると割安です(のれんの評価次第では違った見方もありそうです)。
・年間配当180円とした場合の配当利回りは4.95%ですので、かなり高配当と言えるかと思います。当社の投資を行うか否かの論点は、この配当利回りが維持されるか、という点に尽きます。
・年間配当180円はもう過去10年ほど続いていますので、減配リスクは低い、という見方もできますが、一方で今期の一株利益は115円程度になるとみられますので、配当性向156%と、稼いだ分以上に無理をして配当金を支払っている状態と見ることもできます。
・より詳しく見るために、キャッシュフロー計算書を読んでみます。
・本業で稼ぐ現金額を表す営業キャッシュフロー(営業CF)は、簡略化して純利益+減価償却費と考えると、今期見通しは7465億円と考えられます。
・一方で、返済しなければならない借金は、総有利子負債5.3兆円÷平均返済期間14年=約3800億円(年間平均)と推定されます(財務CF)。また、毎期継続的に更新投資したり取得が必要な権利などは、合計で2000億円程度あるものと思われます(投資CF)。
・先ほどの営業CFから、財務CFと投資CFを引くと、7465-3800-2000=1665億円となりますが、これが配当に回せる金額です。ここで配当金支払額を計算してみると、年間180円×発行済み株式数15.7億株=2836億円ですので、1171億円の不足が生じることになります。
・この不足を埋めるため、当社はこの2年間、固定資産の売却や、一部の(中核的ではない)事業の売却を行うことで現金を得ています。2021/3期はその額約2000億円(前期は約5000億円)になります。これで、帳尻が合う形になり、晴れて2021/3期は180円配当の維持、ということになる訳です。
今後の見通し
・では、今後も事業売却などせずに本業の稼ぎのみで配当金180円が維持できるのでしょうか。
・配当維持のためには、年間の営業CFが8500億円ほど必要です。減価償却費は年間5500億円ですから、純利益3000億円という水準が達成できるかどうか、ということになります。
・単純に、シャイアー単体の買収前の営業利益は3570億円、武田単体は2410億円なので、単純合算では5980億円です。買収に伴う有利子負債の増分3.1兆円に係る金利は利率2%とすると620億円、税率が40%とすると、純利益は(5980-620)×60%=3216億円です。
・こう考えると、3000億円は達成できることになりますが、2021/3期で達成できていない要因には統合費用の存在があると思います。巨大企業の吸収合併ですから、2022/3期まで統合費用は発生するようです。2021/3期も、おそらく1000億円弱くらいの費用がかかっているものとみられます。あとは事業売却などの費用ほか、統合後の業務効率がまだ最適化されていないなどの理由で利益率が低下していることが考えられます。
投資方針
・ここまでの議論はあくまで机上の計算ですので、簡単に見えますが実際はそうではないと思います。しかし、製薬業界はコロナのダメージが少ない業界ですし、当社のように柱となる薬の分野が多岐に渡っている状態であれば、そう簡単に業績が傾くこともないでしょう。
・現状、間違いなく高配当ですし、コロナワクチンの製造も受託する企業ですので、応援の意味でも買っておきたい(話題性があるという意味で、株価上昇のきっかけにもなるかもしれません)と感じます。
・ただし、最近は好決算でも決算発表後に売られるケースが目立っています。その意味では、当社の2021/3期業績はおそらくコンセンサス予想に届かないと思いますし、2022/3期の見通しも保守的に出される可能性があります。そうした観点からは決算発表前後で株価が下落する可能性もあるので、あえて私は空売りから入りました。ですので、もう少し下落すれば、買いに転じて長期保有に切り替えたいと思っています。
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※当記事は特定の株式銘柄の購入を勧奨するものではありません。
あくまで投資は自己責任において行うよう、お願いします。