千鶴「私……、原田さんと永倉さんについて来て本当に良かったのかな…」
原田と永倉について新選組から離れた千鶴。それから暫く経ったある日の晩のこと。酒を飲みに出た原田と永倉を待ち留守番を任された千鶴はひとり深刻な悩みを抱えてひとり佇んでいた。そこへ帰って来た原田はーー
千鶴「おかえりなさい!…永倉さんは?」
原田「古い知り合いに会ったとかで、もう一軒周るってよ」
千鶴「そうですか。お茶でも飲みますか?」
原田「ふっ……いや、いいもんだな。酒かっくらって帰って来て誰かが家で待っててくれて、こうやって茶を出してくれる。カミさんが居るのもこういう感じなのかもな。ーーで、今度は何を悩んでるんだ」
原田の鋭い指摘にたじろぐ千鶴の姿は火を見るよりも明らかであった。
千鶴「悩んでるなんてーー」
原田「隠し事はナシだ!新選組離れてから悩んでる顔してるだろ」
困惑した千鶴の気配を感じ取るものの、原田の追求は止まらない。
原田「好きな男でも出来たか?」
千鶴「そうじゃないです…っ!実は、ここを出て行こうと思ってるんです」
千鶴「私にはやらなきゃいけないことがあります、わかって下さい。これ以上お二人に迷惑をーー」
原田「聞かせてくれ。大体の想像はついてるけどな」
千鶴「父さまのことです…」
原田「そうだよな…、お前の性格じゃ綱道さんをあのまま放っておけるはずがねぇ。とは言え、お前ひとりで何が出来る!羅刹に喰い殺されるがオチだ!」
千鶴「私はお二人を巻き込みたくないんです!傷を負うのはヒトじゃない私だけで十分なんです…」
千鶴の言葉を聞いて眉間にしわを寄せたまま、腕を組み溜め息を吐き出した原田。千鶴はそのまま腰を折り膝をついて土下座をした。
千鶴「お願いします、ここを出て行かせてください!!」
原田は千鶴の肩を掴み面を擡げさせると、言葉を紡いだ。
原田「俺には、お前を護る力はねえって言いてぇのか」
千鶴「っ、違います…!」
原田「何と言われようと無駄だ!」
力強く千鶴の言い分に声を張り上げて突っぱねる原田はそのまま背を向けてしまう。その姿を見て千鶴は言葉を震わせた
千鶴「どう、して……っどうしてわかってくれないんですか!!原田さんには自分の望むものがあります。私のことなんか放っておいて自分の望むものの為に生きてください!!」
原田「惚れた女が死んじまうかもしれねえってのに、黙って見過ごせるかよ」
千鶴「っ!」
抱きしめられて息を飲む千鶴。
原田「俺は確かに鬼でも何でもねぇ。だけどな、それでも惚れた女を命懸けで護りてぇって気持ちくらいは持ち合わせてるんだぜ?」
千鶴「〜っ惚れた女って誰のことですか!」
原田「お前…どこまで鈍感なんだよ。俺が惚れてるのはお前だよ。じゃなきゃ昔の仲間を裏切ってまでお前を連れ出したりしねぇだろ」
千鶴「どうして……私は鬼なんですよ、バケモノなんですよ!?」
原田「鬼だか何だか知らねえが、俺にとってお前はただの女だよ。俺が添い遂げようって思ってるのはお前なんだ。…それとも、“俺なんか”と共に生きるのは嫌か?」
千鶴「望んでも…いいんですか?私が原田さんのお嫁さんになって人間の女の子みたいにずっと…!原田さんのこと考えて……」
原田「言ってみな。お前はこれから何がしたい?どうやって生きてぇんだ?」
千鶴「とても贅沢な夢ですけど…私はあなたと共に生きたい!」
千鶴の本音を聞いて、安心したように原田は後ろから千鶴を抱きしめた。
原田「贅沢なんかじゃねぇよ、俺も同じだから」
千鶴「原田さん……」
原田「悪かったな、言うのが遅くなっちまって」
千鶴「いえ、十分です…!原田さんのお気持ちを今こうして聞けましたから」
原田「あっ、綱道さんのことに関しては今すぐには動けねえ、新八に義理もあるからな。俺に預けてくれ。それでも!お前のことは必ず護るからな!だからずっとついて来てくれ」
千鶴「…っ、はい!!」