近所のファミレスで、多くの客にエネルギーをもたらす『モバイルバッテリーの神』。

 噂話をせず、ただ聞くだけの彼女の元を訪れた、☆幼稚園のセレブママ。


 セレブママは、娘『姫ちゃん』の中学受験を考えているが、姫ちゃんと同じ幼稚園のママ友の賛同が得られていないようで……。


立ちはだかる壁


 関東の、4人に一人は中学受験をする地域。

 だが、セレブママの前に立ちはだかったのは、


①『☆幼稚園』の子はほぼ全員『☆小学校』へと進んで全校生徒の3割を占め、そのまま地元の『☆中学』へと進む為、『☆のママ友グループに所属したまま、幼小中の12年間を過ごす』こと。


② その『☆のママ友グループ』が、☆小中のPTA活動の核で、セレブママも、もそこに参加していること。


③ セレブママは、そのママ友グループのリーダーではないが一目置かれ、自宅がサロン化していること。


④ そこから離れる『自分自身の』不安。


 このあたりのようだ。


セ「姫ちゃんの周りは誰も受けなくて……、うちだけ受験すると、姫ちゃんが裏切り者みたくなっちゃうっていうか…」


 姫ちゃんが裏切り者みたくなっちゃうっていうか…

 私が裏切り者みたくなっちゃうっていうか…


セ「ほら、私、☆幼稚園で役員してたでしょ? その時のグループで、今、☆小のPTAしてて。そのまま☆中でも、PTAしてくと思うんだ…みんなは」


 みんなは。

 でも、私は違うの。


 役員してたでしょ?という言い回しに、相手が自分のことを知っているという奢りも見え隠れする。


 でも、ママ友グループを離れて独立する気でいるのなら、立派じゃないか。

 あんたの目の前のモバ神は、娘さんがいじめに遭った時にスマフォの電話帳を全消しして、それでも本当に自分を案じて連絡を取ってくれる人とだけ、ママ友ではなく『友』として繋がるという、勇気ある選別をなさった賢者でもある。


 爪の垢でもおねだりするがよいと、モバ神を盲信する私は思っちゃったのだが。


セ「実はね、◇中の学校説明会から帰るとこ、見られちゃってたみたいで、それからみんな、うちにも来るけど、他でも集まってるみたいなんだ…。どう思う?」


 ここで、経験不足の若人にお伝えしておくが、


 女性の「どう思う?」「どうしよう」

 → 言ってほしい答えが決まっている


 女性の「どっちがいい?」

 → どっちかは既に決まっている


 故に、欲しいものと違う答えをされると、「でも」からの「あたしのキモチは」が始まる。


 ホットコーヒーにソフトクリームを乗せてクルクルするのは、話に飽きたモバ神がなさる、暇を持て余した神々の遊びである…。



セレブママは群れていたい


神「あっちが他で集まってるなら、こっちも他で集まればいいんじゃないかな。今だって、私と集まってるんだし」

セ「でも、ふたりだよ? 寂しくない?」


 呼び出しておいて、寂しくない?とは、モバ神への冒涜である。


神「私は二人で話すの好きで、そういう人とばっか遊んでるから別に。でも大人数がいいなら、中学で新しいグループに入ればいいじゃん」


 モバ神、怒らない。こういう手合いに慣れておられる。だが、特に情はかけない。私といよっ♡とは言わないのだ。


セ「でも、そしたら姫ちゃんから、幼馴染がいなくなっちゃう……」


 なら、受験なんぞやめればよろしいと思うのだが。


神「受験は娘ちゃん自身の希望なんだよね? だったら、友達と離れる覚悟ができてたり、逆に、繋がっていられる信頼関係ができてるんじゃない?」


 モバ神は、少しだけ意地悪をした。

 本当に姫ちゃんが望んだ受験なら、モバ神の言葉通り、友達についての心配はいらないはずだ。


神「ほんとに大事な相手なら、学校変わったくらいで切れないよ。今はSNSもあるし。見学行ったの◇中だよね? 学区内だし、部活の交流もあるでしょ」

セ「でも…、中学で、知らない人ばっかりな中に入ったら…」

神「友達って、親が維持したり出会わせたりするもんじゃなくない? 押し付けても気が合わないかもだし。子供自身に任せた方がよさげな気が」


 ここでセレブママは、本心を吐露し始めた。



モバ神の鉄槌


セ「でも、姫ちゃん引っ込み思案だから、安心できる子つけてあげたいっていうか……」


 安心できる子つけてあげたい


 つまり、ちゃんの周りの子は、彼女に『付ける』お供なのだ。

 そのお供を捨てて、中学受験をさせたい。

 それに気づいた母親達が、表面的には自分の所に通いながら、裏でも集まっている。お供の母親は、自分のお供。それが、離反をしようとしているのか。


 姫ちゃんの交友関係を案じているわけではない事は、明らかだった。だが、それでも受験を望むのは何なのか……。


 私でも気づいたのだから、モバ神は、もっと多くを察したのだと思う。途中の説明を全部すっ飛ばして、バッサリと告げた。


神「子供はともかく、今の自分の人間関係が不安なら、捨てられる前に捨てちゃった方がいいよ」

セ「捨てるなんて…人のことそんな……」


 自分の言葉を、棚に上げた。

 モバ神は、それを見逃さなかった。


神「つけるなんて…よその子をそんな…だよ?

 で、娘ちゃんに『付けたい』と思ってる『安心できる子』って誰? ☆幼の子達じゃ、安心できないの?」


 セレブママは、うつむいてしまった。


 ママ友の世界に、ここまではっきり言う人はいない。噂話が、何よりも怖い世界だ。悪いところを指摘してくれる『友達』は、そこにはいない。

 しかもセレブママは、周りから常に持ち上げられ、人に背を向けられる事にも、厳しい言葉にも慣れていない。


 だが、モバ神は、そのママ友の世界を切って捨てた人。セレブママから、最も遠くにいる、人の顔色を伺わない人だ。


 だから次の言葉は、まったく空気を読めていないものになった。


セ「……モバ神さんの娘ちゃんに、お友達になってほしいの。一番安心できるから……」


私「ワォ…」


 口から出ていて、モバ神がチラリとこっちを見た。すいません……。


(③へ続く)